病気の発見段階で、予後不良となる場合の多い胆道がんは、“肝内胆管がん、肝外胆管がん、胆嚢がん”の総称で、日本を始めアジアで多いがんですが、近年は欧米でも増加傾向にあります。
しかし、分子標的薬(抗がん剤)を含めて、これまで有効な治療法が確立しておらず、日本国内における5年生存率は20%以下と、膵臓がんに続く予後不良ながんです。
「胆管」とは、肝臓で作られた胆汁を流す管であり、その脇道に胆汁をためる胆嚢があります。
それぞれに出来た癌を、「胆管がん・胆嚢がん」と呼び、「胆管がん」は更に、肝臓内の胆管にできる“肝内胆管がん”と、肝臓外の胆管にできる“肝外胆管がん”に分類します。
胆管は肝臓内では枝葉のように分かれていますが、肝臓外に出る所で1本の“総胆管”になり、肝臓で作られた胆汁は“総胆管”を通って十二指腸に流れ込み、食べ物の消化を助けます。
これまで胆道がんの原因として分かっているのは、膵胆管合流異常と言う、生まれつきの異常と、慢性の炎症が起こる原発性硬化性胆管炎で、約10%と言われています。
また、一部ではアルコールや飲酒が胆管がんの原因ではないか、と言うネット記事が見受けられますが、そのような研究報告や論文は、発表されていません。
しかしこれまで病気の進行を抑制したり、転移を抑制する治療法はなく、放射線治療も転移のない胆管がんなどで行われますが、その効果は限定的でした。また決め手となる抗がん剤もなく、塩酸ゲムシタビン(ジェムザール)やティーエスワンが使われますが、胆道がんを標的にした抗がん剤でないので、効果は限定的でした。
日本やアジアに多い病気と言う事もあり、新薬の開発は遅れており、がん医療の革新的国際プロジェクトがようやく始まったばかりでした。
これは大規模な『胆道がんのゲノム(DNA)ならびにトランスクリプトーム(RNA)解読プロジェクト』と言う研究で、国際共同ゲノムプロジェクト「国際がんゲノム(DNA)コンソーシアム(International Cancer Genome Consortium:ICGC」の一環として、国立がん研究センター(東京都中央区)がんゲノミクス研究分野グループが、厚生労働省、及び日本医療研究開発機構(AMED)の「革新的がん医療実用化研究事業」の支援を受けて行って来たもので、新たな治療標的となりうる新規ゲノム異常や発生部位(肝内および肝外胆管、胆のう)ごとの特徴を明らかにし、8月10付、国際科学誌「Nature Genetics」電子版に発表しました。
胆道がんにおける大規模ゲノム解読
http://www.ncc.go.jp/jp/information/pdf/press_release_20150811.pdf
新たな治療法の開発を目指し、世界最大規模となる260例の臨床検体についてゲノム(DNA)ならびにトランスクリプトーム(RNA)の解析を行い、胆道がんにおけるDNA変異の全貌が明らかになった。
ドライバー遺伝子とは‥‥
がん遺伝子・がん抑制遺伝子といった、がんの発生・進展において直接的に重要な役割を果たす遺伝子。
その結果、解析識別した胆道がんにおけるゲノム(DNA)異常(変異)の中には、少なくとも14個の治療標的(すでに治療薬の臨床開発が進められているもの)となりうる遺伝子が含まれていた事が判明した。
しかもそれらのゲノム異常を少なくとも1つ持つ腫瘍は、全体の約40%を占めている事が分かった。
これらのゲノム異常を標的とした治療薬が、胆道がんに対して有効かどうかは、臨床試験によって検討を重ねる必要があるものの、とりわけ日本人における「胆道がん」治療開発を進めていく上で、重要な情報基盤になると期待される。
その一つが、今年7月3日にブリストル・マイヤーズ株式会社(東京都新宿区)が、厚生労働省より世界で初めて製造販売承認を取得した、「免疫チェックポイント阻害薬」の『ヒト型抗ヒトCTLA-4モノクローナル抗体イピリムマブ(商品名:ヤーボイ点滴静注液50mg)』で、この薬剤は、根治切除不能な「悪性黒色腫」を適応として、海外第III相試験において、BRAF変異に関わらず、非投与群と比較して統計学的に有意な全生存期間の延長を示した。
胆道がん治療の新たな革新的医療として、『免疫チェックポイント阻害薬』に注目が集まる中、この「イピリムマブ(ヤーボイ点滴静注液50mg)」は、切除不能又は転移性悪性黒色腫や肺がんに対する有効性が示されており、治験段階で一部の胆道がんにおいても、免疫チェックポイント阻害薬に反応する可能性が示唆されていた。
つまり悪性黒色腫の患者のDNA遺伝子変異と、胆道がんの患者のDNA遺伝子変異に共通する遺伝子変異が見つかったと言う事だ。
『免疫チェックポイント阻害薬』とは、
ウィルスやがん細胞などを攻撃する免疫細胞の一種、T細胞が、がん細胞が自らを守る細胞傷害性Tリンパ球抗原-4(CTLA-4)と言う抑制因子によって、T細胞の働きを抑制するのを阻害する事で、T細胞を活性化しT細胞を増やす事で腫瘍の増殖を抑制する薬剤の事である。
これまで有効的な治療法のなかった胆道がんの治療薬開発に、ゲノム解析が大きな道しるべとなるだろう。
そして既に登場している薬剤の中に、有効な薬剤があるかもしれない。
また今後、更なる胆道がんに対する免疫チェックポイント阻害薬の開発推進が期待される。