ファイザー株式会社(本社:東京都渋谷区)は5月18日、メルクセローノ株式会社(本社:東京都目黒区)とコゥ・プロモーション(Co-promotion=2社の製薬企業が医薬品を並行販促する事)を行っている抗悪性腫瘍剤/チロシンキナーゼ阻害剤「ザーコリ®カプセル200mg/250mg」(一般名:クリゾチニブ=Crizotinib)に関し、新たな適応症として「ROS1融合遺伝子陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん(NSCLC)」の追加承認を取得したと発表した。
肺がんは、顕微鏡で細胞がどのように見えるかによって、非小細胞肺がん(85-90%=扁平上皮がん、腺がん、大細胞がん)と、小細胞肺がん(10~15%)に分けられます。
更に、非小細胞肺がん(NSCLC)の中でも希少肺がんである、『ROS1(インスリン受容体族の受容体型チロシンキナーゼ)融合遺伝子陽性非小細胞肺がん』は、世界で毎年150万人が新たに非小細胞肺がんの診断を受け(アメリカ癌学会「Detailed Guide」/世界保健機関「GLOBOCAN 2012」)、そのうちのおよそ1万5000症例は、“ROS1遺伝子の再構成”によって生じた肺がんである可能性があります。
日本に於いては、肺がんの総患者数が13万8000人である事から(厚生労働省「平成23年患者調査の概況」)、『ROS1融合遺伝子陽性非小細胞肺がん』の推定患者数は、1400名程度と考えられます。
『ROS1融合遺伝子陽性』は、ROS1遺伝子と別の遺伝子が融合し、ROS1遺伝子-再構成が生じると、各遺伝子の機能が正常に働かず、がん細胞の成長を促進する、癌ドライバーとなる事が報告されています。
疫学データから、非小細胞肺がん(NSCLC)のおよそ1%に、ROS1遺伝子-再構成が認められる事が示唆されています。
「ザーコリ®(Crizotinib)」は、米ファイザー社が開発した分子標的薬であり、作用機序としてROS1阻害作用も有している。ROS1融合蛋白のチロシンキナーゼ活性を阻害する事により、腫瘍細胞の成長と生存に必要な細胞内のシグナル伝達を遮断します。
「ザーコリ®」の承認事項一部変更申請は、2016年8月31日に行い、今年、5月18日の適応拡大承認となった。
新適応症での申請は、「ROS1融合遺伝子陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌(NSCLC)」を対象とした、海外第Ⅰ相試験、並びに日本を含むアジア共同第Ⅱ相試験において「ザーコリ®」の有効性と安全性を評価し、その結果を取りまとめ行った。
ROS1融合遺伝子陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌(NSCLC)に対して「ザーコリ®」は、希少疾病用医薬品(オーファンドラッグ)に指定されています。
また「ザーコリ®」は、既に国内に於いて2012年3月、「ALK融合遺伝子陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌」の適応症で承認を取得しています。「ザーコリ®」は、世界初のALK阻害剤であり、これまでに世界で40,000名以上の患者さんの治療に使用されています。
近年、非小細胞肺がん(NSCLC)の治療薬の進歩は目覚ましいものがあります。
話題になった「オプジーボ」や「キイトルーダ」、更に「イレッサ」も今も尚多くの患者に使用されていますが、画期的治療薬と持てはやされたものの、効果の現れない患者さんがいるのも現実です。
その原因は、多様な遺伝子変異や遺伝子融合にある事が分かって来ました。
複数の遺伝子異常に対して、同時に高い効果を発揮する薬剤が求められています。
こうした大学などの研究者や、製薬企業の開発担当者には素直に敬意を表したいと思います。そして、薬剤が高額だと不満を言う前に、自身がそうした病気にならない努力を、惜しまない事を望んでやみません――。