ノバルティス・ファーマ株式会社(日本法人:東京都港区)は7月31日、先端巨大症および下垂体性巨人症の治療薬として、ソマトスタチンアナログ(Somatostatin analogues:SSA)製剤である「パシレオチドパモ酸塩(開発コード:SOM230、以下パシレオチド)」について、国内における製造販売承認申請を行ったと発表した。
“先端巨大症”は、脳下垂体に発生する非がん性(良性)腫瘍により、成長ホルモン及びインスリン様成長因子-1(IGF-1)が過剰に分泌され、手足や内臓の肥大、顔貌の変化といった、先端巨大症状を伴う身体的変化がみられる希少な内分泌疾患です。
“下垂体性巨人症”は、骨端軟骨線閉鎖前の成長ホルモン過剰分泌により、著しい身長増加が認められる、こちらも稀な内分泌疾患です。
これら2つの疾患は、いずれも下垂体前葉から慢性的に成長ホルモンが過剰に分泌されるという点で同質の疾患であり、診断基準も共通している。
[*脳下垂体と下垂体は同じ部位の事ですが、内部が3つに分かれていて別種のホルモンを分泌するので、ホルモン分泌に関しては下垂体と呼ぶ事が多い。]
下垂体の前葉からは、成長ホルモンをはじめ、性腺刺激ホルモン、副腎皮質刺激ホルモン、甲状腺刺激ホルモン、乳汁分泌ホルモンなど色々なホルモンが分泌されています。
また下垂体の後葉からは、抗利尿ホルモン、子宮収縮ホルモンが分泌され、下垂体の中葉からはメラニン色素細胞の拡大・増殖に関与する中葉ホルモンが分泌されています。
“下垂体性巨人症”及び“先端巨大症”は、どちらも成長ホルモンの過剰分泌が長期にわたると、糖尿病、高血圧、心疾患、関節炎、大腸がんなど、死亡リスクの上昇につながる重篤な転帰に至る可能性もある事から、両疾患ともに国内では「下垂体性成長ホルモン分泌亢進症」として難病指定されている。
治療の第一選択は、脳を直接開かない「経蝶形骨洞的(けいちょうけいこつどうてき)下垂体腫瘍摘出術」と言う、安全に行える手術により腫瘍を摘出します。
しかしこの手術が適応とならない患者や、手術後も成長ホルモンやインスリン様成長因子-1(IGF-1)のコントロールが不良な場合には、薬物療法や必要に応じて放射線療法が行われます。
しかし近年の調査で、患者の45%が既存の治療によって適切な成長ホルモン値や正常なIGF-1値を達成出来ていないことが判明しており、このような患者に対して、成長ホルモン分泌を更に抑制する治療薬の登場が待たれていました。
新たに承認申請を行った「パシレオチド」は、成長ホルモンを過剰分泌する先端巨大症など、下垂体に出来る固形腫瘍で発現が亢進している、ソマトスタチン受容体に結合、活性化する事により、ホルモン分泌を抑制する。
これまでもソマトスタチン受容体の活性化を抑える、同様の作用を有するソマトスタチンアナログ(Somatostatin analogues:SSA)製剤はありましたが、既存SSAの薬物治療でコントロール不良な、先端巨大症や下垂体性巨人症の患者に対し、国内外の臨床試験で、「パシレオチド」は既存SSA製剤と比較し、臨床症状の改善傾向などを示したと言う。
本剤は既に、2014年11月にEU(欧州連合)で、手術で効果が不十分、又は手術が困難で、尚且つ、既存のSSA製剤では適切に管理できない先端巨大症の患者に対する治療薬として承認されたほか、2014年12月には米国において、手術で効果が不十分、又は手術が困難な先端巨大症の患者に対する治療薬として承認を取得している。
国内での患者数は、先端巨大症が約11,000名、下垂体性巨人症が約400名で、年間発症数はそれぞれ約700名および約20名と推定されています。
発症患者数の割合は、欧米と同程度と推定され、男女差は無い。
また40歳以降に身長が伸びた場合は、この疾患を疑ってみて下さい。
子供の場合、クラスや学年に目立った高身長の子が、100人のうち2~3人いますが、殆どは病気ではなく体質的なものや遺伝的なものです。
また下垂体性の高身長を危惧するのは、両親が小さいのに子供だけ大きいような場合や、極端な高身長(2メートルを超えそう)の場合は、内分泌科専門医に相談してみて下さい。