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子宮癌肉腫治療薬の抗体薬物複合体「DS-8201」、世界初の医師主導治験を開始

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今回、医師主導治験(*本文末尾参照)を開始したのは、希少がんの中でも更に発症頻度の極めて少ない、“子宮癌肉腫”を対象に、新規の抗体薬物複合体(ADC=Antibody-drug conjugate)『DS-8201』で、国立研究開発法人 国立がん研究センター中央病院など全国7つの医療施設で、12月4日から始まった──。

試験ID番号、UMIN000029506の試験が実施されるのは、◆国立がん研究センター中央病院、◆埼玉医科大学国際医療センター、◆静岡県立がんセンター、◆愛知県がんセンター中央病院、◆兵庫県立がんセンター、◆四国がんセンター、◆九州がんセンターの7施設です。


子宮癌肉腫治療薬・抗体薬物複合体DS-8201のイメージ写真
子宮癌肉腫治療薬・抗体薬物複合体「DS-8201」は、
医師主導治験を開始したばかりであり、製品写真はありません。
*写真はイメージです。




普通の子宮内膜の組織構造

子宮体癌の組織構造

知られている子宮がん(子宮体がん)は、粘膜や皮膚などの上皮性細胞から発生する悪性腫瘍ですが、子宮癌肉腫は、筋肉や骨などの非上皮性細胞から発生する悪性腫瘍と定義され、がん腫部位(上皮性細胞)と肉腫部位(筋肉や骨)から構成される悪性度の高い腫瘍です。

日本国内に於ける子宮体がん(子宮頸がんは除く)の年間発症数は約13,600例、死亡数は約2,200例です(人口動態統計2014年)が、2014年の子宮癌肉腫の発症数は475例で、その死亡数については把握されていません。

その理由として、子宮癌肉腫の疾患概念が、いまだ確立されておらず、子宮体がんに対して推奨される化学療法とは異なっており、子宮癌肉腫に対する標準治療は、世界的にも未だ確立されていないためです。


上皮性成分と間葉性成分が共に悪性の子宮体癌

癌性と肉腫性の両方を持つ子宮癌肉腫

有糸分裂が増幅された高悪性度の子宮癌肉腫

病期によらず、治癒切除が可能と考えられる場合には、一般的に手術が実施されます。

また治癒切除が困難な場合であっても、性器出血に対し、止血目的の子宮全摘出術が先行される例も多く、リンパ郭清術(手術時がんを切除するだけでなく、がんの周辺にあるリンパ節を切除する事)についてはI期~III期症例の生命予後を改善する事が、米国から報告されています。

切除不能の子宮癌肉腫に対する薬物療法は、子宮体がんに準じて行われますが、選択肢は限定的で、予後不良の疾患です。



子宮癌肉腫においては、『HER2受容体』が過剰発現している事が報告されています。

子宮がん細胞のHER2遺伝子増殖とHER2受容体過剰発現
子宮癌肉腫細胞に過剰発現する「HER2受容体」と増殖する「HER2遺伝子」。


国立がん研究センター中央病院で治療を実施した患者の腫瘍組織を解析した所、HER2が3+と判定された患者が8.3%、HER2が2+と判定された患者が36%、HER2が1+と判定された患者が33%、HER2陰性と判定された患者が23%となり、45%弱の患者でHER2が2+以上の過剰発現患者でした。




『DS-8201』は、第一三共株式会社が創製した、HER2タンパク質に対する抗体薬物複合体で、抗HER2抗体とトポイソメラーゼ阻害薬の“DXd”を結合させた、分子標的薬抗体薬物複合体製剤です。
抗体薬物複合体(Antibody Ddrug Conjugate)は、がん細胞に発現している標的分子(HER2)に結合する抗体を介して、薬物をがん細胞に直接届け、がん細胞のDNAを直接破壊するものです。


抗体薬物複合体DS-8201の仕組み
トポイソメラーゼ阻害薬“DXd”は、癌細胞に運ばれると、癌の細胞核DNAに結合し
DNAの複製を阻止して癌細胞核の内部から直接破壊する。


これまでの抗体薬は、HER2に結合して免疫細胞の攻撃を援護する物でしたが、がん細胞内のDNAを直接攻撃できるので、薬物の全身曝露を抑えつつ、がん細胞への攻撃力を高める事が出来ます。

尚、今回の試験は、子宮癌肉腫に発現するHER2蛋白質を標的とした分子標的薬として、世界初の医師主導治験だと言う事です。


『DS-8201』は、既に、第一三共株式会社主導で実施された、日米第I相臨床試験(標準的治療が不応又は不耐となったHER2陽性の再発・転移性乳がんや胃がん患者を対象にDS-8201の安全性、忍容性および予備的有効性を評価した試験)で良好な結果が得られ、米国食品医薬品局(FDA)よりHER2陽性の再発・転移性乳がん治療を対象として「画期的治療薬(Breakthrough Therapy)」に指定された。

『DS-8201』は、第一三共株式会社主体で、乳がん、胃がん等を対象とした臨床試験が進められていますが、発症頻度の極めて少ない子宮癌肉腫を対象にした試験は行われていない。


ペタしてね月

*『医師主導の治験』とは…

▼海外では既に承認されている。
▼或いは、既に標準薬として確立されている薬物。
▼日本国内の臨床現場でも必要性があるが、承認されていない医薬品。
▼採算性等の理由により製薬企業が治験を行わない。
▼製薬企業が採算性などの理由で興味を示さない。
▼そのため、医師自らが治験を実施することを制度上可能にした。
▼治験目的が明確化されている。


と、公益社団法人日本医師会 治験促進センター医師主導治験、及び厚生労働省の「医師主導治験の現状と課題」に記載されています。

そして、全ての関係者が、医師主導の治験は社会貢献である事の再認識が必要がある、と記されている。

『医師主導の治験』は、治験の準備から管理を医師自ら行う事であり、治験を実施する事により、その医薬品や医療機器の薬事承認を取得し、臨床の現場で適切に使えるようにする事が可能となります。


是非とも、有意な結果がもたらされる事を期待したい!




ペタしてね鳥

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