女性の癌として最も多い乳がんの治療法に関する学会のガイドラインが改訂され、遺伝子の変異によって、再び乳がんになるリスクが高い患者に対しては、カウンセリングの体制が整っている事などを条件に、癌になっていない乳房も切除して予防する事を「強く推奨する」ことになりました。乳がんを予防するための手術が、今後、増えるきっかけになると見られる。
日本乳癌学会は16日、遺伝性の乳がんについて、将来、癌になるリスクを減らすため、反対側の癌のない乳房を予防的に切除する手術を「強く推奨する」と、学会の診療指針を3年ぶりに改定し、発表した。
指針で、反対側のがんのない乳房について標準的な治療法をまとめた、日本乳癌学会の診療ガイドライン(指針)では、これまで乳がんを予防するために、癌のない乳房の予防切除は「検討してもよい」にとどまっていた。
今回の改定により、患者が希望し、カウンセリング体制が整っている事などが条件で、「強く推奨する」としました。
但し、予防切除は公的医療保険の対象外で、患者は全額負担が求められる事になります。
乳がんの予防のための乳房切除術は、片方の乳房に癌が見つかった、「BRCA」と呼ばれる遺伝子に変異がある患者については、再び乳がんになるリスクが高いとして、希望により、癌がない片側乳房も切除して予防する手術の事です。
■ 乳がんの一部に、遺伝が強く関係するタイプがあり、その中で最も多くの割合を占めるのが、「遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(HBOC)」という遺伝性腫瘍によるものです。
「遺伝性乳がん・卵巣がん症候群」の人は、乳がんや卵巣がんの発症リスクが、一般の人よりかなり高く、遺伝的な要因が強く関与していると考えられ、その中で、最も多いのが「BRCA1」、「BRCA2」という2つの遺伝子変異を原因とする、「遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(HBOC)」です。
家系の中に、特別に乳がん・卵巣がんが多ければ(「家族歴、家族集積性が見られる」と言う)、BRCA1/2遺伝子の変異が原因の可能性があります。
但し、癌は、遺伝要因だけでなく、環境要因が絡み合って起こるため、ある家族に特殊な癌が多くても、それをもってして即、遺伝とは言い切れない事もあり、全ての乳がんが遺伝によるものではありません。
現在、日本では年間8万~9万人が乳がんと診断されています。
そのうち、家族性、家族集積性が見られる「家族性乳がん」は10~20%、遺伝によるものとハッキリ分かる人は5~10%程度と言われています。
日本人には少ないと言われていた、BRCA1/2遺伝子変異による「遺伝性乳がん・卵巣がん症候群」の患者ですが、遺伝子解析の集積で、日本人にも欧米と同等の割合で存在する事が分かって来ました。
これを受け、日本でも予防的乳房切除術の準備体制を整える動きがあり、これまで聖路加国際病院(東京都中央区)、がん研有明病院(東京都江東区)など、全国8施設でカウンセリングから術後ケア、乳房再建から精神的対応までの体制が整っているとされています。
「遺伝性乳がん・卵巣がん症候群」の原因遺伝子BRCA1/2に変異がある乳がん患者では、その後、卵巣がんに罹患する確率が高くなる。
そのため、遺伝子解析の結果、「遺伝性乳がん・卵巣がん症候群」が明らかになった乳がん患者を対象にした、卵巣、卵管の予防的切除は、2011年夏に、臨床試験の一環として、慶応義塾大学病院と、がん研有明病院が実施したと発表している。(出産の完了または閉経前)
この治療は、予防的両側卵巣卵管切除術というより、リスク低減(軽減)両側卵巣卵管切除術と呼ばれるようになっています。
乳がんの予防切除は保険の適用外。
厚生労働省医療課の担当者は、「予防を認めるとなると、乳がんのみに留める訳にはいかず、大きな議論が必要になる」と述べ、保険適用拡大は難しいとの認識を示している。
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遺伝性乳がんの予防的切除術~乳癌学会ガイドライン「強く推奨」に改訂
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