乳腺の元々の姿。
★女性の乳腺だけが発達する理由。
乳腺は汗腺(皮膚腺の一種)が変形したものです。
哺乳類では皮膚に小汗腺(エクリン腺)、大汗腺(アポクリン腺)、皮脂腺、乳腺の四つの皮膚腺が出現します。小汗腺(普通の汗を分泌)は全身に分布し、水分の多い分泌物を出して(蒸発)、毛穴と共に体温調節に重要な働きをしています。
大汗腺(腋の下・まつ毛・外耳道・肛門の周囲・外陰部等に限る)は、やや粘りのある液を分泌しますが、乳腺(メロクリン汗腺)は大汗腺と同じ分泌様式です。
▲尚、Web検索や一部のネット記事に於いて「乳腺はホロクリン分泌である」との記載がありますが、解剖医学用語集meddicに於いて=メロクリン腺とホロクリン腺(皮脂腺)は明確に区別されています。<参考元:米国テキサス州オースティン・コミュニティ大学解剖学分野「外皮の汗腺システム」図解説より>
思春期前の子供たちでは、男性と女性の胸の一般的な構造は類似していて、女性の胸はエストロゲン(卵胞ホルモン)と黄体ホルモンの影響を受けて、思春期(二次性徴と言われる12歳頃~17歳頃)の間に大きくなり始めます。
女性の乳房は、性的成熟と共に発達し、更に妊娠により著しく発達して、母乳の産生と分泌が可能になります。
この母乳を産生する場所が「乳腺」と呼ばれる外分泌腺です。
「乳腺」は、ヒトを含む脊椎動物の哺乳類だけに存在し、この構造は、緻密な結合組織と豊富な脂肪組織に周囲を包まれた、乳腺房・乳腺小葉・乳腺葉の集合体です。
乳腺葉(lobus)は15~20個の乳腺小葉(lobulus)から成り、1個の乳腺葉からは1本の乳管(細乳管)が出ていて、それぞれが乳頭(乳首)開口部に至るまでに合流し、最終的に平均9本の乳管口が乳頭に開いています。
★乳腺の本当の役割。
出産後の数日間(4~5日間)出てくる母乳は、帯黄白色~淡黄色で「初乳」と呼ばれ、その後は乳白色(成熟乳)になります。
初乳も成熟乳も、全て母親の血液から作られます。
◆初乳:乳房が最初に作る母乳です。濃縮した非常に栄養価が高い母乳で、色は濃黄色からオレンジ色ですが、人によって色合いにバラツキがあります。
このオレンジ色は高濃度のベータ(β)-カロチン(ビタミンAの元)の色で、母親の野菜の摂取量で色が違ってきます。
◆移行性乳:初乳後は高カロリーが必要になるため、脂肪や高栄養の移行性初乳が作られ始めます。それに伴って淡黄色から白色へと変わります。
脂肪分がまだ微量なため、移行性乳の段階で、母乳がやや青み色をしてる場合がありますが、この色は緑色の野菜の色素で、脂肪分が授乳によって増えるとクリーム色や乳白色に変化するので、心配はいりません。
◆成熟乳:初乳から約2週後、母乳は成熟した乳白色になります。初乳には脂肪分が殆ど含まれていません。それには理由がありますが、後述します*。
◆後期乳:この時期は安定した淡いクリーム色となります。
さて、母親の食事で微妙に母乳の色に変化はあるものの、では何故、赤い血液から産生される母乳が、赤くないのでしょうか?
実はそこには、産まれたばかりの赤ちゃんを守る為の、幾つもの巧妙な仕組みがあります。
そして先ほど触れた、初乳に脂肪分が殆ど含まれていない理由と関係して来ます。
出産前…赤ちゃんは、母親のお腹の中では「無菌」の子宮内環境で育(はぐく)まれていますが、出産後は幾種の病原体が存在する子宮外環境にさらされるので、生存する為には免疫物質が必要です。(カビの胞子、ノミ、ダニ(死骸浮遊含む)、シラミ、花粉、コアクラーゼ陰性菌=皮膚常在菌、サルモネラ菌、狂犬病菌、大腸菌、インフルエンザウイルス等々)
それら病原菌や雑菌から守ってくれる免疫物質が、母親の初乳に含まれる蛋白質(ラクトフェリン、分泌型免疫グロブリンIgA、オリゴ糖)です。
特にオリゴ糖は、実に90種類以上含まれ、これらの多くは中耳炎、呼吸器感染、胃腸炎などの感染症から赤ちゃんを守る役割を担っています。
また、生まれたばかりの赤ちゃんの腸内には細菌はいませんが、口や鼻から雑菌が侵入してきて、腸内に住み着いて来ますが、オリゴ糖は腸内環境バランスを守るビフィズス菌を増やす働きがあります。
初乳が、赤ちゃんの免疫強化に深く関わっている事は、既に知られている事ですが、初乳が淡黄色である理由はそれだけではありません。
初乳には、ビタミンAやビタミンEと言った、「抗酸化物質」が豊富に含まれています。
何故「抗酸化物質」が初乳に豊富に含まれているのでしょう?
その理由が、赤い血液が黄白色に変わる理由です。
初乳を産生する為に使われる血液は、新鮮な酸素を大量に含んだ『動脈血』です。
呼吸で取り入れられた酸素は、肺の中でガス交換によって動脈内に取り込まれ、心臓のポンプの力で全身の隅々まで新鮮な酸素を運びます。
運ばれた酸素(O2)は、細胞で新陳代謝などに使われた後は、二酸化炭素(CO2)として「静脈」の中に入り、肺のガス交換で呼吸によって体外に排出されます。
しかし赤ちゃんは酸素の極めて低い子宮内(胎盤供給)から、いきなり酸素の豊富な外気にさらされると、酸素が過剰になる事で体内の正常な細胞を傷つけてしまう……いわゆる活性酸素となってしまいます。
活性酸素は、細胞を直接的、或いは間接的に傷つけ、老廃物を作り出します。
活性酸素によって体内が酸化する事を「抗酸化作用」と言い、赤ちゃんの成長にはマイナスとなります。
*ここに初乳に脂肪分が微量である理由があります。
ビタミンAやDなどは、脂肪に溶ける性質(脂溶性ビタミン)があるので、僅か4~5日ですが、濃度の高いビタミンA類を与える事が目標の初乳には、脂肪分は邪魔となります。
何より先に出産直後の赤ちゃんを守り、「抗酸化作用」を防ぐためビタミンA類が最優先されるという訳です。
このビタミンAやビタミンEは、母親が食事(サプリメント含む)で体内に摂取する事で、乳汁として分泌されます。
〔参考文献及び引用元〕
◆独立行政法人 家畜改良センター「免疫のシステムと初乳」抗体の血中分布より
◆最新家畜臨床繁殖学より
◆小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)・ヒトにおける乳腺より
◆へるす出版 よくわかる母乳育児・第2章/乳房の解剖、乳腺組織の発生と発達より
血液が赤色をしているのは赤血球に含まれるヘモグロビンの色で、へモグロビンは鉄を含む色素(ヘム)とタンパク質(グロビン)とから成り、酸素を運搬する役目を担っています。
しかし産まれたばかりの赤ちゃんも、肺呼吸によって自力で必要な酸素を得るので、呼吸以外からの大量の酸素は必要なく、乳汁はヘモグロビン色素が取り除かれた状態となり、血液色の「赤」から黄色やオレンジ色の様な色になるのです。
乳腺の本当の役割とは…。
▼無抵抗な赤ちゃんに「免疫グロブリン(特に初乳にはIgAが多い)」を供給する事で、免疫機能を立ち上げ強化する。
*初乳のIgAは消化酵素の影響を受けにくい。消化酵素の影響を受けるIgGは殆ど含まない。成熟乳では、ほぼ均等になる。
▼抗酸化物質を供給する。
▼オリゴ糖を含むタンパク質(糖質に分類)を供給し、整腸作用や腸内有用細菌を増やす。
▼野菜類が少ないと母乳のビタミン類が欠乏する。
▼母親が食事や呼吸で摂取した、有害物質(アルコール、タバコ、コーヒーなどの嗜好品、麻薬類等薬物、授乳禁忌薬剤、大気汚染物質など)を取り除き、静脈血にヘモグロビン色素と共に追い出す。
まとめ……
乳腺細胞(腺房細胞)の役割は、血液中の物質を基にして乳汁を生産し、産まれたばかりの赤ちゃんを発育させて、免疫機能を授ける生涯で最も重要や役割を担っているのです。
〔参考文献及び引用元〕
◆へるす出版 よくわかる母乳育児・第3章/母乳分泌の生理より
◆へるす出版 これでナットク母乳育児 母乳のつくられ方より
★女性の乳腺だけが発達する理由。
乳腺は汗腺(皮膚腺の一種)が変形したものです。
哺乳類では皮膚に小汗腺(エクリン腺)、大汗腺(アポクリン腺)、皮脂腺、乳腺の四つの皮膚腺が出現します。小汗腺(普通の汗を分泌)は全身に分布し、水分の多い分泌物を出して(蒸発)、毛穴と共に体温調節に重要な働きをしています。
大汗腺(腋の下・まつ毛・外耳道・肛門の周囲・外陰部等に限る)は、やや粘りのある液を分泌しますが、乳腺(メロクリン汗腺)は大汗腺と同じ分泌様式です。
▲尚、Web検索や一部のネット記事に於いて「乳腺はホロクリン分泌である」との記載がありますが、解剖医学用語集meddicに於いて=メロクリン腺とホロクリン腺(皮脂腺)は明確に区別されています。<参考元:米国テキサス州オースティン・コミュニティ大学解剖学分野「外皮の汗腺システム」図解説より>
思春期前の子供たちでは、男性と女性の胸の一般的な構造は類似していて、女性の胸はエストロゲン(卵胞ホルモン)と黄体ホルモンの影響を受けて、思春期(二次性徴と言われる12歳頃~17歳頃)の間に大きくなり始めます。
女性の乳房は、性的成熟と共に発達し、更に妊娠により著しく発達して、母乳の産生と分泌が可能になります。
この母乳を産生する場所が「乳腺」と呼ばれる外分泌腺です。
「乳腺」は、ヒトを含む脊椎動物の哺乳類だけに存在し、この構造は、緻密な結合組織と豊富な脂肪組織に周囲を包まれた、乳腺房・乳腺小葉・乳腺葉の集合体です。
乳腺葉(lobus)は15~20個の乳腺小葉(lobulus)から成り、1個の乳腺葉からは1本の乳管(細乳管)が出ていて、それぞれが乳頭(乳首)開口部に至るまでに合流し、最終的に平均9本の乳管口が乳頭に開いています。
★乳腺の本当の役割。
出産後の数日間(4~5日間)出てくる母乳は、帯黄白色~淡黄色で「初乳」と呼ばれ、その後は乳白色(成熟乳)になります。
初乳も成熟乳も、全て母親の血液から作られます。
◆初乳:乳房が最初に作る母乳です。濃縮した非常に栄養価が高い母乳で、色は濃黄色からオレンジ色ですが、人によって色合いにバラツキがあります。
このオレンジ色は高濃度のベータ(β)-カロチン(ビタミンAの元)の色で、母親の野菜の摂取量で色が違ってきます。
◆移行性乳:初乳後は高カロリーが必要になるため、脂肪や高栄養の移行性初乳が作られ始めます。それに伴って淡黄色から白色へと変わります。
脂肪分がまだ微量なため、移行性乳の段階で、母乳がやや青み色をしてる場合がありますが、この色は緑色の野菜の色素で、脂肪分が授乳によって増えるとクリーム色や乳白色に変化するので、心配はいりません。
◆成熟乳:初乳から約2週後、母乳は成熟した乳白色になります。初乳には脂肪分が殆ど含まれていません。それには理由がありますが、後述します*。
◆後期乳:この時期は安定した淡いクリーム色となります。
さて、母親の食事で微妙に母乳の色に変化はあるものの、では何故、赤い血液から産生される母乳が、赤くないのでしょうか?
実はそこには、産まれたばかりの赤ちゃんを守る為の、幾つもの巧妙な仕組みがあります。
そして先ほど触れた、初乳に脂肪分が殆ど含まれていない理由と関係して来ます。
出産前…赤ちゃんは、母親のお腹の中では「無菌」の子宮内環境で育(はぐく)まれていますが、出産後は幾種の病原体が存在する子宮外環境にさらされるので、生存する為には免疫物質が必要です。(カビの胞子、ノミ、ダニ(死骸浮遊含む)、シラミ、花粉、コアクラーゼ陰性菌=皮膚常在菌、サルモネラ菌、狂犬病菌、大腸菌、インフルエンザウイルス等々)
それら病原菌や雑菌から守ってくれる免疫物質が、母親の初乳に含まれる蛋白質(ラクトフェリン、分泌型免疫グロブリンIgA、オリゴ糖)です。
特にオリゴ糖は、実に90種類以上含まれ、これらの多くは中耳炎、呼吸器感染、胃腸炎などの感染症から赤ちゃんを守る役割を担っています。
また、生まれたばかりの赤ちゃんの腸内には細菌はいませんが、口や鼻から雑菌が侵入してきて、腸内に住み着いて来ますが、オリゴ糖は腸内環境バランスを守るビフィズス菌を増やす働きがあります。
初乳が、赤ちゃんの免疫強化に深く関わっている事は、既に知られている事ですが、初乳が淡黄色である理由はそれだけではありません。
初乳には、ビタミンAやビタミンEと言った、「抗酸化物質」が豊富に含まれています。
何故「抗酸化物質」が初乳に豊富に含まれているのでしょう?
その理由が、赤い血液が黄白色に変わる理由です。
初乳を産生する為に使われる血液は、新鮮な酸素を大量に含んだ『動脈血』です。
呼吸で取り入れられた酸素は、肺の中でガス交換によって動脈内に取り込まれ、心臓のポンプの力で全身の隅々まで新鮮な酸素を運びます。
運ばれた酸素(O2)は、細胞で新陳代謝などに使われた後は、二酸化炭素(CO2)として「静脈」の中に入り、肺のガス交換で呼吸によって体外に排出されます。
しかし赤ちゃんは酸素の極めて低い子宮内(胎盤供給)から、いきなり酸素の豊富な外気にさらされると、酸素が過剰になる事で体内の正常な細胞を傷つけてしまう……いわゆる活性酸素となってしまいます。
活性酸素は、細胞を直接的、或いは間接的に傷つけ、老廃物を作り出します。
活性酸素によって体内が酸化する事を「抗酸化作用」と言い、赤ちゃんの成長にはマイナスとなります。
*ここに初乳に脂肪分が微量である理由があります。
ビタミンAやDなどは、脂肪に溶ける性質(脂溶性ビタミン)があるので、僅か4~5日ですが、濃度の高いビタミンA類を与える事が目標の初乳には、脂肪分は邪魔となります。
何より先に出産直後の赤ちゃんを守り、「抗酸化作用」を防ぐためビタミンA類が最優先されるという訳です。
このビタミンAやビタミンEは、母親が食事(サプリメント含む)で体内に摂取する事で、乳汁として分泌されます。
〔参考文献及び引用元〕
◆独立行政法人 家畜改良センター「免疫のシステムと初乳」抗体の血中分布より
◆最新家畜臨床繁殖学より
◆小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)・ヒトにおける乳腺より
◆へるす出版 よくわかる母乳育児・第2章/乳房の解剖、乳腺組織の発生と発達より
血液が赤色をしているのは赤血球に含まれるヘモグロビンの色で、へモグロビンは鉄を含む色素(ヘム)とタンパク質(グロビン)とから成り、酸素を運搬する役目を担っています。
しかし産まれたばかりの赤ちゃんも、肺呼吸によって自力で必要な酸素を得るので、呼吸以外からの大量の酸素は必要なく、乳汁はヘモグロビン色素が取り除かれた状態となり、血液色の「赤」から黄色やオレンジ色の様な色になるのです。
乳腺の本当の役割とは…。
▼無抵抗な赤ちゃんに「免疫グロブリン(特に初乳にはIgAが多い)」を供給する事で、免疫機能を立ち上げ強化する。
*初乳のIgAは消化酵素の影響を受けにくい。消化酵素の影響を受けるIgGは殆ど含まない。成熟乳では、ほぼ均等になる。
▼抗酸化物質を供給する。
▼オリゴ糖を含むタンパク質(糖質に分類)を供給し、整腸作用や腸内有用細菌を増やす。
▼野菜類が少ないと母乳のビタミン類が欠乏する。
▼母親が食事や呼吸で摂取した、有害物質(アルコール、タバコ、コーヒーなどの嗜好品、麻薬類等薬物、授乳禁忌薬剤、大気汚染物質など)を取り除き、静脈血にヘモグロビン色素と共に追い出す。
まとめ……
乳腺細胞(腺房細胞)の役割は、血液中の物質を基にして乳汁を生産し、産まれたばかりの赤ちゃんを発育させて、免疫機能を授ける生涯で最も重要や役割を担っているのです。
〔参考文献及び引用元〕
◆へるす出版 よくわかる母乳育児・第3章/母乳分泌の生理より
◆へるす出版 これでナットク母乳育児 母乳のつくられ方より