妊娠前や妊娠中に薬を服用していると、生まれる子供(児)にどのような影響があるのか気になる所です。その薬が抗うつ薬や睡眠薬である場合、尚のこと心配は尽きません。
近年、頻繁に耳にする“産後うつ”は、患者である母親が妊娠中に既に罹患している場合があり、抗うつ薬や抗不安薬を妊娠中のため飲めない…断薬と言う選択をする母親が増えています。
しかし実際には、妊娠中の精神疾患(不眠症、抑うつ、心身症/不安・緊張・強迫・恐怖、うつ病、うつ状態、パニック障害、社会不安、双極性)は、希有なことではなく、向精神薬によって治療することが多いのです。
近年では、“産後うつ”や“育児不安”などは妊娠初期から現れる妊婦も多く、出産後の“育児放棄”や、緊張や不安を取り除く向精神薬、及び抗うつ薬の使用が増加しています。
ところが向精神薬を服用した場合の子宮内(胎児)曝露(バクロ)の影響についての情報は、新薬ほど限られている現状があります。
抗うつ薬使用についての研究は比較的多いのですが,母体基礎疾患、飲酒・喫煙、麻薬、カフェインなど、出生転帰(妊娠継続中)に影響する可能性のある他の因子を、適切に調整していないものも多く、また最近不安視されている発達障害(高機能自閉症やアスペルガーなど)やADHD(注意欠陥/多動性障害)、知的障害などは、催奇形(先天性心疾患など)と異なり、年月が経たないと分からない病態もあります。
■ 最近までFDA(米国食品医薬品局)は妊娠中の薬物安全性に関する規制情報について、OTC薬及び処方薬の安全性を5つ(A, B, C, D,X)のカテゴリーに分類していました。
薬の安全性のことを調べると、この五段階表示を目にしたことがある人もいると思います。
A…妊婦に対しての研究結果では妊娠3ヵ月時も、その後の妊娠期間にも、胎児への危険が発見されなかったもの。胎児に対して害を与える可能性は殆ど無いもの。
B…動物実験では胎児に対しての影響は発見されなかったが、妊婦における臨床検査は行われていないもの。もしくは動物実験で胎児に影響が発見されたが、ヒト妊婦に対しての臨床検査で危険性が確認されていないもの。
C…動物実験で胎児に対する危険性が発見されたが(催奇形児、未熟児)、妊婦における臨床検査は行われていないもの。もしくは動物実験も妊婦における臨床検査も行われていないもの。《特》
D…人間の胎児に対する危険性がはっきりと確認されているもの。但し、その薬を使わないと命にかかわる場合や深刻な病気に罹患していて、その薬より安全な薬が使えない。《特》
X…動物実験でも妊婦における臨床検査でも胎児に対する異常が発見されている。もしくは妊婦が使った場合、胎児に対する危険性が発見されている。妊婦の服用は絶対しないこと。
しかしFDAは、2014年12月4日、良好に統制された大規模で、尚且つ永年追跡された治療薬の研究で、妊婦と児(こ)を対象に実施されたものは殆ど無く、妊娠中の薬物安全性に関する情報の大半は、動物試験、非対照研究、及び市販後調査から得られたものである。
そのため,FDAの5つの分類システムは混乱を招くもので、利用可能な情報を臨床意思決定に適用することは困難として、妊娠に関するカテゴリーを全ての薬剤の表示から削除することを義務付けた。 https://www.federalregister.gov/documents/2014/12/04/2014-28241/content-and-format-of-labeling-for-human-prescription-drug-and-biological-products-requirements-for
検索すると未だにこの米FDA基準を見かけますが、コホート研究は積み重ねられており、信用すべきではないでしょう。主治医の判断に従うのが妥当と思われます。
~ノルウェーのコホート(長期間にわたって特定の地域や集団に属する人々を対象)研究で5歳時点のADHD発達を評価~
母体のベンゾジアゼピン使用は児(こ)のADHDに関係しない。
概要はJAMA Network Open誌の「Association of Maternal Use of Benzodiazepines and Z-Hypnotics During PregnancyWith Motor and Communication Skills and Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder Symptoms in Preschoolers」2019年4月5日電子版
ノルウェー・オスロ大学のAngela Lupattelli氏らのコホート研究データで。
分析対象者、1999~2008年の妊婦計9万5200人の母親と、産まれた11万4500人の小児が参加、子供が5歳時点までの追跡結果。
《クリックすると拡大します。》
【引用・記事元:日経メディカル/海外論文ピックアップ 母体のベンゾジアゼピン使用は児のADHDに関係しない 2019/5/7より表を作成しました】
尚、読売新聞電子版の2017年7月8日付け「ヨミドクター」に、『妊娠中の抗うつ薬がADHDリスクを高める』との、香港の研究グループの記事が抜粋され掲載されていますが、英語の全文を読む限りに於いて、抗うつ薬のどんな薬剤名か、或いは処方用量などについて一切記載が見当たりませんでした。
抗うつ薬の種類は多岐に渡り、用法用量も妊婦では特別な配慮がなされるべきですが、そうした記載もなく評価及び信頼性に乏しい。
▼危険度の評価は、「実践 妊娠と薬 第2版(発行:2010年12月/発行元:株式会社じほう/定価:¥13,000+税)」の時点で得られた妊婦を対象とした疫学調査・症例研究・動物実験等の情報、及び一部最新の文献に基づいています。
▼評価条件の文言は、『虎ノ門病院 「妊娠と薬相談外来」』に記載された条件に、株式会社じほう発行の「治療薬ハンドブック2019(発行:2019年1月19日)」に追加された条件を新たに記載しています。
▼同じ1点であっても、新薬発売直後で催奇形性を示す情報が少ない薬物と、疫学調査で催奇形との関連は認められなかったことが確認されている薬物では、情報の質と量に基づく信頼度に大きな差がある。
▼そこで、情報の質と量をスコア化し、「±」、「+」、「++」、「+++」の4段階で表示している。
危惧されるのは、うつ病や不安症、パニック障害や統合失調症の患者が低年齢下していて、十代から向精神薬を服用している女性が増えている事です。
この人たちが妊娠をむかえるのは20歳代半ばから30歳前後で、例え精神疾患を抱えていても安心して妊娠を継続し、向精神薬についても胎児へのリスクが軽微で服薬を続けられるよう、十分なコホート追跡研究が積み重ねられることを願います。
向精神薬だけでなく、市販薬でもリスクは付きものですが、せめて処方薬に関しては、安全情報の蓄積に惜しまない努力を期待するばかりです。
近年、頻繁に耳にする“産後うつ”は、患者である母親が妊娠中に既に罹患している場合があり、抗うつ薬や抗不安薬を妊娠中のため飲めない…断薬と言う選択をする母親が増えています。
しかし実際には、妊娠中の精神疾患(不眠症、抑うつ、心身症/不安・緊張・強迫・恐怖、うつ病、うつ状態、パニック障害、社会不安、双極性)は、希有なことではなく、向精神薬によって治療することが多いのです。
近年では、“産後うつ”や“育児不安”などは妊娠初期から現れる妊婦も多く、出産後の“育児放棄”や、緊張や不安を取り除く向精神薬、及び抗うつ薬の使用が増加しています。
ところが向精神薬を服用した場合の子宮内(胎児)曝露(バクロ)の影響についての情報は、新薬ほど限られている現状があります。
抗うつ薬使用についての研究は比較的多いのですが,母体基礎疾患、飲酒・喫煙、麻薬、カフェインなど、出生転帰(妊娠継続中)に影響する可能性のある他の因子を、適切に調整していないものも多く、また最近不安視されている発達障害(高機能自閉症やアスペルガーなど)やADHD(注意欠陥/多動性障害)、知的障害などは、催奇形(先天性心疾患など)と異なり、年月が経たないと分からない病態もあります。
【ネット検索の盲点】
■ 最近までFDA(米国食品医薬品局)は妊娠中の薬物安全性に関する規制情報について、OTC薬及び処方薬の安全性を5つ(A, B, C, D,X)のカテゴリーに分類していました。
薬の安全性のことを調べると、この五段階表示を目にしたことがある人もいると思います。
A…妊婦に対しての研究結果では妊娠3ヵ月時も、その後の妊娠期間にも、胎児への危険が発見されなかったもの。胎児に対して害を与える可能性は殆ど無いもの。
B…動物実験では胎児に対しての影響は発見されなかったが、妊婦における臨床検査は行われていないもの。もしくは動物実験で胎児に影響が発見されたが、ヒト妊婦に対しての臨床検査で危険性が確認されていないもの。
C…動物実験で胎児に対する危険性が発見されたが(催奇形児、未熟児)、妊婦における臨床検査は行われていないもの。もしくは動物実験も妊婦における臨床検査も行われていないもの。《特》
D…人間の胎児に対する危険性がはっきりと確認されているもの。但し、その薬を使わないと命にかかわる場合や深刻な病気に罹患していて、その薬より安全な薬が使えない。《特》
X…動物実験でも妊婦における臨床検査でも胎児に対する異常が発見されている。もしくは妊婦が使った場合、胎児に対する危険性が発見されている。妊婦の服用は絶対しないこと。
しかしFDAは、2014年12月4日、良好に統制された大規模で、尚且つ永年追跡された治療薬の研究で、妊婦と児(こ)を対象に実施されたものは殆ど無く、妊娠中の薬物安全性に関する情報の大半は、動物試験、非対照研究、及び市販後調査から得られたものである。
そのため,FDAの5つの分類システムは混乱を招くもので、利用可能な情報を臨床意思決定に適用することは困難として、妊娠に関するカテゴリーを全ての薬剤の表示から削除することを義務付けた。 https://www.federalregister.gov/documents/2014/12/04/2014-28241/content-and-format-of-labeling-for-human-prescription-drug-and-biological-products-requirements-for
検索すると未だにこの米FDA基準を見かけますが、コホート研究は積み重ねられており、信用すべきではないでしょう。主治医の判断に従うのが妥当と思われます。
【最新の海外論文からピックアップ】
~ノルウェーのコホート(長期間にわたって特定の地域や集団に属する人々を対象)研究で5歳時点のADHD発達を評価~
母体のベンゾジアゼピン使用は児(こ)のADHDに関係しない。
概要はJAMA Network Open誌の「Association of Maternal Use of Benzodiazepines and Z-Hypnotics During PregnancyWith Motor and Communication Skills and Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder Symptoms in Preschoolers」2019年4月5日電子版
ノルウェー・オスロ大学のAngela Lupattelli氏らのコホート研究データで。
分析対象者、1999~2008年の妊婦計9万5200人の母親と、産まれた11万4500人の小児が参加、子供が5歳時点までの追跡結果。
《クリックすると拡大します。》
【引用・記事元:日経メディカル/海外論文ピックアップ 母体のベンゾジアゼピン使用は児のADHDに関係しない 2019/5/7より表を作成しました】
尚、読売新聞電子版の2017年7月8日付け「ヨミドクター」に、『妊娠中の抗うつ薬がADHDリスクを高める』との、香港の研究グループの記事が抜粋され掲載されていますが、英語の全文を読む限りに於いて、抗うつ薬のどんな薬剤名か、或いは処方用量などについて一切記載が見当たりませんでした。
抗うつ薬の種類は多岐に渡り、用法用量も妊婦では特別な配慮がなされるべきですが、そうした記載もなく評価及び信頼性に乏しい。
▼危険度の評価は、「実践 妊娠と薬 第2版(発行:2010年12月/発行元:株式会社じほう/定価:¥13,000+税)」の時点で得られた妊婦を対象とした疫学調査・症例研究・動物実験等の情報、及び一部最新の文献に基づいています。
▼評価条件の文言は、『虎ノ門病院 「妊娠と薬相談外来」』に記載された条件に、株式会社じほう発行の「治療薬ハンドブック2019(発行:2019年1月19日)」に追加された条件を新たに記載しています。
▼同じ1点であっても、新薬発売直後で催奇形性を示す情報が少ない薬物と、疫学調査で催奇形との関連は認められなかったことが確認されている薬物では、情報の質と量に基づく信頼度に大きな差がある。
▼そこで、情報の質と量をスコア化し、「±」、「+」、「++」、「+++」の4段階で表示している。
危惧されるのは、うつ病や不安症、パニック障害や統合失調症の患者が低年齢下していて、十代から向精神薬を服用している女性が増えている事です。
この人たちが妊娠をむかえるのは20歳代半ばから30歳前後で、例え精神疾患を抱えていても安心して妊娠を継続し、向精神薬についても胎児へのリスクが軽微で服薬を続けられるよう、十分なコホート追跡研究が積み重ねられることを願います。
向精神薬だけでなく、市販薬でもリスクは付きものですが、せめて処方薬に関しては、安全情報の蓄積に惜しまない努力を期待するばかりです。