厚生労働省は1月8日、化学及血清療法研究所(化血研、本社:熊本市北区)に110日間(1月18日から5月6日まで)の業務停止命令を出した。
年明けまで厳しい行政処分が延びたのは、血液製剤の中で在庫不足が見込まれる3種類の製剤について、厚生労働省の「薬事・食品衛生審議会血液事業部会運営委員会」が6日、約8000本の出荷を認める案を了承し、この分は化血研への指示事項として、記録を保存することや出荷後の副作用の情報収集を徹底する事などを徹底するよう盛り込まれ、この結論を得て、1月8日、業務停止命令を発動した。
●出荷対象血液製剤本数(出荷を認める本数7973本)
▽献血グロブリン注射用(乾燥ペプシン処理人免疫グロブリン)2573本
▽乾燥濃縮人血液凝固第VIII因子2800本(コンファクトF 1000単位)
▽乾燥濃縮人血液凝固第IX因子2600本。(ノバクトM)
上記のいずれの製剤も、在庫の本数が限られており、献血グロブリン注射用は1月下旬、コンファクトFとノバクトMは3月下旬には在庫がなくなる恐れがあった為の処置。
化血研の血液製剤を巡っては、約40年にわたり、承認されていない方法で製造。
厚生労働省の立ち入り検査などで、承認書に記載の無い抗凝固剤の添加といった、不正製造の実態が明らかになったほか、虚偽の製造記録を作成するなど、国の査察に対する隠ぺい工作が常態化していた事も判明している。
厚生労働大臣の塩崎恭久氏は1月4日の閣議後の記者会見で、この問題について、「組織的な欺罔(ぎもう)あるいは隠蔽をかなりの長期にわたって続けており、医薬品の製造許可を取り消すに値する事態だと認識している」と見解を述べていた───。
今回の処分により、化血研は処分期間中、同社が製造販売する医薬品の製造・販売を停止する。
但し、患者に与える影響を鑑み、代替製品のない血液製剤8製品とその他ワクチンや抗毒素製剤など19製品は処分の対象外(業務停止除外品目)として製造・販売を継続する。
処分の対象外となる医薬品は以下の通り。
●血液製剤
・乾燥濃縮人活性化プロテインC
・乾燥スルホ化人免疫グロブリン
・乾燥濃縮人血液凝固第X因子加活性化第VII因子
・乾燥濃縮人血液凝固第IX因子
・生体組織接着剤
・ヒスタミン加人免疫グロブリン(乾燥)
●ワクチン製剤など
・インフルエンザHAワクチン
・沈降精製百日せきジフテリア破傷風不活化ポリオ(セービン株)混合ワクチン
・組換え沈降B型肝炎ワクチン(酵母由来)
・乾燥細胞培養日本脳炎ワクチン
・乾燥組織培養不活化A型肝炎ワクチン
・乾燥組織培養不活化狂犬病ワクチン
・乳濁細胞培養インフルエンザHAワクチン(H5N1株)
・乳濁細胞培養インフルエンザHAワクチン(プロトタイプ)
・沈降インフルエンザワクチン(H5N1株)
・乾燥細胞培養痘そうワクチン
・沈降精製百日せきジフテリア破傷風混合ワクチン
・乾燥はぶ抗毒素
・乾燥まむし抗毒素
・乾燥ガスえそウマ抗毒素
・乾燥ジフテリアウマ抗毒素
・乾燥ボツリヌスウマ抗毒素
・乾燥ボツリヌスウマ抗毒素(E型)
・ペントスタチン
・メカセルミン(遺伝子組換え)
その他、除外品目以外の業務停止対象品目について厚生労働省は、業務停止期間中に医療機関から供給要請があった場合は、事前に厚生労働省の了解を得た上で出荷し、緊急の場合は必要量を出荷した後に、速やかに報告するよう求めている。
また、厚生労働省は1月8日、化血研が熊本県公安委員会へ届出をせずに、二種病原体等であるボツリヌス毒素を事業所外に運搬していた問題についても、再発防止を徹底するよう求める行政指導を行った。
今回の血液製剤の不正製造によって、これらの製剤が献血から作られている事を考えると、非常に悪質で欺瞞としか言いようがないが、これがある種、独占企業だったと言う事から、40年以上に渡って不正が続けられてきた。
しかし、この不正製造が明るみになるきっかけが、厚生労働省への内部告発だった───。
昨年5月、匿名の投書が厚生労働省に届いた。
化血研の職員を名乗り、国に承認された方法とは異なって、添加物を無断で加えていた事など法令違反をしている事が書かれており、「心が痛む」と綴られていた。
この情報をもとに、厚生労働省は抜き打ちで調査を実施。40年以上に渡って欺き続けて来た不正が明らかになっていった・・・。
今回の厳しい御沙汰は、過去、前例が無い程、重いお裁きとなった。
この人物には、自分の処遇が窮地に立たされようとも、人命を預かる化学者としての誇りと、製造者としての不条理に直面し、やりきれない思いを抱えていたのかも。
病の人の血なり汗となる、命の血液製剤を作る者として、企業ぐるみの不正体質を看過できなかった・・・。
こういう人物が、40年と言う時間の果てに、ようやく現れてくれた事に、奇跡を感じてしまうのだ。