肺がんの手術後の転移を抑えると期待される、急性心不全治療薬「ハンプ®」。
既に心不全の治療薬として承認されている、この薬剤に着目したのは、国立循環器病研究センター(大阪府吹田市)の野尻崇・ペプチド創薬研究室長らの研究グループで、6月1日、肺がんの手術後の転移を抑える臨床研究を、大阪大学附属病院など国内10施設が9月以降、順次始めると発表した。
癌細胞を直接攻撃するのではなく、癌細胞が増殖するために必要な、癌細胞から伸びる新たな血管の成長を阻止する事で、転移を防ぐ新しいタイプの薬として、効果が出るかどうか注目される。
近年、心臓から分泌される心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)ホルモンが血管に作用して、癌の転移を抑制する効果が確認されていた。
他にも、抗悪性腫瘍剤「ベバシズマブ」や、VEGF受容体阻害薬、チロシンキナーゼ阻害剤など多数の同様作用の薬剤が臨床使用されているものの、これらは化学療法薬である為、抗がん剤と同じ副作用が現れる。
しかし心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)は本来、心臓から分泌されるホルモンであり、心不全の治療という、全く異なる治療に使われて来た───。
それが、副作用も少なく、癌の転移抑制にも有効となれば、世界初の薬剤という事になる。
臨床研究は、ANPの効果を詳しく調べるのが目的で、肺がんの手術を受ける患者500人を、手術の直前からANPを3日間点滴する群と、点滴しない群に分けて、手術後に肺がんが転移した割合などを比べる。
ANPは、癌を抑える薬として未承認だが、臨床研究は医療費の一部に公的医療保険が使える、「先進医療B」の審査期間を短縮する国家戦略特区の特例が適用される、全国初の事例となる。
これまで2月の段階では、参加する施設は9施設だったが、1医療施設が追加され、臨床研究に参加するのは以下の10施設となった。
北海道大学病院▽山形大学医学部附属病院▽山形県立中央病院▽東京大学医学部附属病院▽大阪大学医学部附属病院▽神戸大学医学部附属病院▽国立病院機構刀根山病院(大阪府豊中市)▽大阪府立成人病センター▽大阪府立呼吸器・アレルギー医療センター。
(新規)国立がん研究センター東病院(千葉県柏市)。
主任研究者を務める国立循環器病研究センターの野尻崇・ペプチド創薬研究室長は「ANPが、癌の転移を抑制するという新しいアイデアを活用した初めての臨床研究になる」と話す。