女性体温計や血圧計、とろみ・半固形栄養食、医療用器具などを販売するテルモ株式会社(本社:東京都渋谷区)は5月30日、世界初の心不全治療用の再生医療等製品「ハートシート」の販売を開始した。
本製品の製造販売承認申請は、「骨格筋芽細胞シート」の名称で2014年10月31日に行われました。
また、厚生労働省が再生医療の実用化を促進するために制定した「条件及び期限付き承認」という早期承認制度が適用になった初めての製品です。
「ハートシート」は、患者の大腿部(ふともも)から採取した筋肉組織に含まれる、骨格筋芽細胞を培養してシート状に調製し、患者の心臓表面に移植する製品で、虚血性(きょけつせい)心疾患による重症心不全の治療を目的としている。
「ハートシート」は、薬物治療や冠動脈バイパス手術などの標準治療で効果不十分な、虚血性心疾患による重症心不全の治療の新たな選択肢として期待されています。
◎∴虚血性心疾患とは=今年5月12日に44歳の若さで急死された、タレント前田健さんも虚血性心疾患でしたが、突然死を招く危険のある心疾患で、心臓の筋肉(心筋)に血液を送っている太い動脈(冠動脈)の内側が狭くなったり塞がったりする事で、心筋が酸素不足になり、心臓の機能が低下する事で起こる心臓病の事を言います。
◎∴冠動脈バイパス手術とは=詰まった冠動脈に脚などの血管を迂回路として移植する手術の事。
自分の骨格筋芽細胞を用いた心不全治療(別名:心筋再生医療)は、2007年より細胞シートの開発に着手し、2015年8月26日に、大阪大学大学院医学系研究科 心臓血管外科において、世界で初めて移植手術が実施されました。
この治療は人工心臓を装着された、重症心不全(拡張型心筋症)の40代男性患者に行われましたが、その後患者は人工心臓が外せるほどに心機能が回復し、無事退院、現在は健康な人と変わらない生活を送られています。
本製品は、患者の細胞を採取するための「Aキット」と、培養した骨格筋芽細胞と細胞をシート化するための「Bキット」によって構成されており、この度、保険適用診療1例目の患者の細胞採取のため、「Aキット」を医療機関に向けて販売を開始した。テルモでは、今後年間20~30例の治療での使用を見込んでいるとの事。
【ハートシート概要】
「Aキット」
1)医療機関において採取した骨格筋をテルモへ輸送するために用いる組織輸送液が充填された『骨格筋容器』。
2)医療機関において採取した血清をテルモへ輸送するために用いる『血清分離器具類』。
「Bキット」
1)患者自身の骨格筋芽細胞をテルモで培養して増殖させた後に凍結保存した『凍結保存細胞』。
2)医療機関において骨格筋芽細胞シートの調製を行う際に、解凍した細胞の洗浄、骨格筋芽細胞シートの調製、試験検査に用いる『培地類』。
3)骨格筋芽細胞シートの調製、包装及び試験検査に用いる『シート調製器具類』。
【効能、効果又は性能】
<対象とする心不全の状態>
・NYHA心機能分類がⅢ又はⅣ度
・安静時における左室駆出率が35%以下
上記の基準の全てを満たす、薬物治療や侵襲的治療を含む標準治療で効果不十分な虚血性心疾患による重症心不全の治療。
【診療報酬上の取り扱い施設基準】
(1)植込型補助人工心臓(非拍動流型)の実施施設として届出のある施設である事。
(2)循環器内科の経験を5年以上有する、常勤医師及び心臓血管外科の経験を5年以上有する、常勤医師がそれぞれ1名以上配置され、これらの医師は所定の研修を修了している事。
など5項目の基準を満たしている医療施設である事。
(参考)ハートシートは、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクトで、大阪大学大学院医学系研究科心臓血管外科:澤芳樹教授が開発を進め、臨床研究が実施されてきました。テルモは、大阪大学との共同研究を進め、先端医療開発特区「スーパー特区」の「細胞シートによる再生医療実現プロジェクト」(研究代表者:東京女子医科大学:岡野光夫教授)に参加しました。
心臓移植しか助かる方法の無かった虚血性心疾患による重症心不全に対して、「ハートシート」は2015年9月18日、世界初となる心不全治療用の再生医療製品として製造販売承認を取得。
もちろん全ての重症心不全の患者に適応される物ではないものの、この培養シート移植が、治験段階を出て、実際の治療に使用されるようになった事で、より多くの患者に希望と福音をもたらしてくれる事でしょう。