7月3日放送の『NHKスペシャル 私は家族を殺した~“介護殺人”当事者たちの告白~』は、見るものを絶望と悲観へと突き落とす程、ショッキングで暗鬱な内容だった。
『NHKスペシャル』はこれまでも、「無縁社会~“無縁死”3万2千人の衝撃~」や、「終(つい)の住処(すみか)はどこに ~老人漂流社会」、「老人漂流社会 ~“老後破産”の現実~」など、高齢者‥‥とりわけ独居老人や高齢者夫婦だけの人達が、現実に直面している厳しい実態を取り上げて来た。
しかし、『介護殺人~当事者たちの告白』は、これまで日本で殆ど触れられた事のない、衝撃的な現実を、主に過去に親や妻(夫)の介護疲れが原因と見られる未遂を含めた“殺人事件”や“心中”など、いわゆる“介護殺人者”のインタビューで構成されたものだった。
“無縁死”や“老後破産”など、比較的冷静に視られる題材とは全く異なる、強烈なインパクトを視聴者に突き付けた。
この番組を視聴したネットユーザーからは、呆然とするコメントが寄せられたと言う───。
介護疲れによって家族の命を奪う「介護殺人」は、去年までの6年間に少なくとも138件発生していると言う。6年は2190日なので、1年では約15.8日に1件の発生となり、約2週間に1件の割合で起きている事になる。
2016年04月29日
■ 午前0時20分頃、大阪府大阪市此花区伝法の路上で、「電柱で首を吊って自殺しようとしている男がいる」と、通行人の男性から110番通報。警察が駆け付けた所、男は「内縁の妻を殺した」と話し、自宅の市営住宅の部屋で70代ぐらいの女性の遺体が発見された。
自称韓国籍の無職・大浦次郎(本名=孫晋慶(しんけい)容疑者(69))を殺人の疑いで緊急逮捕した。
孫晋慶容疑者から事情を聞いた所、「介護に疲れ、おととい首を絞めて殺害した。自分も死のうと思った」と、容疑を認めている。
2016年04月05日
■ 午後3時頃、兵庫県加東市長貞の民家で、認知症を患っていた79歳の妻の首を絞めて殺害したとして、兵庫県警加東署は6日、夫の無職・八尾嘉明容疑者(82)を殺人容疑で逮捕した。
八尾嘉明容疑者は妻と長男(50)の3人暮らしで、長男は留守だった。八尾嘉明容疑者は調べに、「夜に2回ぐらい、トイレで起こされていた」などと供述していると言う。兵庫県警加東署は、介護疲れの可能性も含めて動機を調べている。
2016年04月04日
■ 午前9時頃、宮城県加美町上野目中ノ内の住宅で、車椅子生活の母親を訪問した介護施設の職員が、呼んでも返事が無い事を不審に思い、母親の弟に連絡。弟が4日午前11時頃、自宅の介護用ベッドの脇で、車椅子にもたれ掛かった状態で死亡している、無職・佐藤ふみ子さん(65)を見つけ、110番した。
長女の無職・佐藤由美子容疑者(41)を、同居する母親の佐藤ふみ子さんの遺体を遺棄したとして、死体遺棄容疑で5日、逮捕した。佐藤由美子容疑者は、母親の佐藤ふみ子さんの長女で2人暮らし。佐藤ふみ子さんは左半身が不自由で、車椅子生活をしていた。
佐藤由美子容疑者は、「母親が死亡しているのは分かっていて、出掛けた」と容疑を認めている。
2016年03月20日
■ 午前0時半頃、兵庫県神戸市兵庫区兵庫町のマンションで、川面加寿江(かわずら・かずえ)さん(53)が冷たくなっていると、同居する妹の無職・中原志寿江容疑者(51)が119番通報した。警察が駆け付けた所、川面加寿江さんが自宅のベッドで布団をかぶった状態で、仰向けで死亡していた。
死亡した川面加寿江さんには知的障害があり、調べに対し中原志寿江容疑者らは、「知的障害のある叔母(おば)の食事の食べ方が汚いので、イライラして殴ってしまった」と供述していると言う事です。
2016年03月07日
■ 午前7時25分頃、岐阜県海津市海津町成戸の無職・野村裕さん(57)方から出火、木造平屋建ての母屋と木造2階建ての離れを全焼し、離れの焼け跡から女性の遺体が見つかった。岐阜県警海津署は7日、この家に住む無職・野村裕容疑者(57)を現住建造物等放火の疑いで逮捕した。遺体で見つかったのは野村裕容疑者と同居する妹の野村久美子さん(56)で、野村裕容疑者は野村久美子さんと2人暮らしで、野村久美子さんには知的障害があったと言う事です。
2016年02月26日
■ 午後5時40分頃、神奈川県横須賀市桜が丘の市営団地の住民から、「年配の男性が警察官を呼んでほしいと言っている」と110番通報があった。神奈川県警浦賀署員が駆けつけると、団地の一室でこの部屋に住む女性(68)が倒れており、女性は顔に殴られた痕があった。現場にいた夫(70)が「妻を殴ったかもしれない」と話した為、神奈川県警浦賀署は傷害容疑で夫を逮捕した。妻はその後、死亡が確認された。
夫は妻と2人暮らしで5年ほど前から認知症を患い、最近は症状が悪化していたと言う事です。
2016年02月20日
■ 午前8時過ぎ、鳥取県鳥取市栗谷町の無職・伊藤禅さん(82)が自宅で倒れているのを、訪ねてきた息子が見つけ119番した。駆け付けた消防によって、伊藤禅さんは既に死亡が確認された。
伊藤禅さんの首の絞められたような痕は、紐状の物が使われたと見られ、同居している70代後半の妻も、同じ部屋で手首から血を流しているのが見つかり病院に搬送され、入院した。搬送時、意識はあったと言う。
伊藤禅さんと妻は2人暮らし。付近の住民によると、伊藤禅さんは地域の自治会長を長く務めていた。最近は要介護認定を受け、杖を使って歩いたり、週に3回介護デイサービスを利用していた。
2016年02月5日
■ 午後11時25分頃、埼玉県小川町腰越の住宅で、無職・国崎恭子さん(77)の夫から「妻を殺した」と110番があり、駆け付けた埼玉県警小川署員が、台所で血を流して倒れている妻の国崎恭子さんを発見した。国崎恭子さんはその場で死亡が確認された。夫の國崎誠一容疑者(83)が殺人の疑いで逮捕されました。
國崎誠一容疑者は調べに対して、「認知症の妻の介護に疲れ、無理心中を図った」などと話していたと言う事です。
しかし・・・國崎誠一容疑者は逮捕後には殆ど取り調べに応じず、食事も摂らなかった為、警察は医師と相談した上で2月17日、埼玉県小川町内の病院に入院させていましたが、入院後も食事を殆ど摂ろうとしなかった為、点滴などで栄養補給をしていましたが、2月23日午前10時頃、病院で死亡が確認されました。
2015年12月17日
■ 17日午前0時頃、栃木県那須町高久甲の無職・常松正根容疑者(71)が、介護が必要な妻(69)を殺害したとして殺人容疑で逮捕された。自宅寝室の介護用ベッドで寝ていた妻葉子さんの首をベルトで締め、殺害した疑いがある。約2時間後、ワゴン車の後部座席に遺体を乗せ、「介護疲れで殺した」と栃木県警那須塩原署に自首した。
葉子さんは脳の病気で倒れ、寝たきりの状態になり、数年前から認知症を患い、常松正根容疑者にきつい言葉を浴びせることが増えていたと言う。
調べに「介護の時にきつい言葉を言われた」などと供述している事が分かった。
2015年12月18日
■ 三重県警紀宝署は18日夜、三重県紀宝町浅里の無職・植地紀生容疑者(52)を82歳の母親を殺害したとして、殺人容疑で逮捕したと19日発表した。
発表によると、植地紀生容疑者は18日深夜、自宅離れで母・植地靖子さん(82)の口をタオルで塞ぎ、殺害した疑い。警察の調べに対して植地紀生容疑者は容疑を認め、「電動車椅子の購入を巡って口論になり、殺した」と供述していると言う。植地紀生容疑者は母親と2人暮らし。
2015年12月3日
■ 午前1時半頃、神奈川県平塚市の住宅で、83歳の母親の全身を鉄の杖で十数回殴り重傷を負わせたとして、娘の本田美智容疑者(44)が逮捕された事件で、母親が5日、入院先の病院で死亡した。警察によると、逮捕された本田美智容疑者は、3日、神奈川県平塚市の自宅で、介護を巡って口論になった母親の本田菊子(83)さんを鉄製の杖で十数回殴って重傷を負わせた疑いが持たれている。
本田美智容疑者は調べに対し、「母が失禁したのに認めなかったので、カッとなって叩いた」と容疑を認めていると言う。
2015年11月28日
■ 午前8時15分頃、愛知県みよし市明知町団子山の市営住宅で、無職・佐々野丈市(じょういち)さん(73)方で、次男(41)から「父が起きてこないので寝室を見に行くと、布団をかぶったまま口から血を流している」と119番があった。愛知県警豊田署員が駆けつけると、佐々野丈市さんは現場で死亡が確認され、妻の佐々野夏子容疑者(72)が「手で首を絞めた」などと話したため、愛知県警豊田署は殺人容疑で逮捕した。
次男によると、佐々野丈市さんが認知症だったと話していると言う事で、警察では詳しい動機などについて調べています。
2015年10月20日
■ 宮城県七ヶ浜町東宮浜の民家を訪れた、近くに住む家族の長女から「家に誰もいない」と、警察に通報があった。この住宅には87歳の母親の佐藤かの(87)さんと長男・佐藤長一さん(57)、それに50代の次女が住んでいましたが、警察が調べた所、庭で土が盛り上がった場所から遺体の一部が見つかり、翌日の21日、警察が現場を掘り起こして調べた結果、女性の遺体が見つかった。
近隣住民によると、佐藤かのさんは要介護度4で寝たきりに近く、自力で歩くのは難しい状態で、次女は周囲に「介護に疲れた」などと漏らしていた。
2015年8月7日
■ 午前8時25分ごろ、北海道小樽市入船3の無職・山根久子さん(87)方で、同居している長男の資材卸売会社社長・山根敏嗣さん(67)から「自宅で母親が倒れている。妻が刺したようだ」と119番があった。久子さんは1階寝室で倒れており、病院に搬送されたが、死亡が確認された。
小樽署などによると、殺害された山根久子さんは寝たきりで介護が必要だったという。久子さんは長男の山根敏嗣さんとその妻の3人暮らしだった。
2015年7月28日
■ 山梨県上野原市大野の住宅で、自宅1階寝室で寝ていた妻の松土通江さん(88)の首を絞めて殺害したとして、夫で無職の松土賢一容疑者(93)が逮捕された。夫婦は長男の夫婦と4人暮らしで、松土通江さんが布団の上で倒れているのを長男の妻が見つけたと言う事で、松土通江さんの死因は窒息死だった。
夫婦は近くの介護施設でデイサービスを利用していて、施設の職員によりますと、松土通江さんは腰を痛めていましたが、外に出た方が体に良いと、交流や入浴のために週に3日、施設を利用していた。松土賢一容疑者は「自分も死のうと思った」などと話しているとの事。
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実はこれはウェブニュースで報道されたほんの一部。
ウェブニュースや新聞報道に載らない、老々心中、親子心中、頼まれ殺人、傷害致死や入水自殺なども、原因が介護によるものが、多々起こっている。
更に、身体的障害や知的障害の子供を、母親が将来を悲観し殺害するケースも‥‥、いつまでも自身が面倒を見れないと言う介護予期不安から、理性を失い、犯行に及ぶ。
「死んでくれたら楽になると思い、枕に母の顔を押しつけた事があった」
「絶望し、親子心中や自殺を考えた」
「母親と口論になって、思わず『一緒に住みたくない、死んでほしい、殺したい』と怒鳴った」
「我慢の毎日」
「牢獄にいるよう」
「介護をするためだけに自分がいる」
介護をしている相手に対して、「一緒に死にたい」、「手にかけてしまいたい」と思った事がある人が4人に1人に上っている事が分かった。
事件は起きていなくても、追い詰められた状態で介護をしている人が少なくない実態が明らかになった‥‥。
国立長寿医療研究センターの荒井由美子研究部長は、
「国は在宅で介護をしている人の負担を把握する事は謳っているが、現場には十分に浸透していないと思う。在宅での介護を進めるのであれば、家族の心身の健康状態を守る事が必要で、そうしないと共倒れになってしまう──。介護者の負担を把握し、それを減らすという視点で、これから益々対策を取っていく必要がある」と指摘している。
年老いて、足腰が弱り、動く事もままならず、更に認知症を患うかもしれないと言うのは、認知症を除けば、脳の病気や骨折なども含め、誰にでも必ず訪れる、絶対に回避出来ない宿命でもある。
それはまるで、災害列島日本の、人間と自然との戦いの歴史にも似ている。
地震や自然災害は、必ず、いつかは襲ってくる。
私たちはその「もしも」の瞬間に備えて、知識を集め、協力し合い、いつ訪れるか分からない瞬間のために、可能な限りの準備をしておく必要がある。
災害はいつか必ず襲い掛かる。
その脅威から逃れる術は少ないかもしれないが、それでも最小限の被害にとどめるため、準備を怠ってはならない。
それは日本人が、日本列島に住み始めた時から今日まで、「備えを」「準備を怠るな」と代々語り継がれてきた事でもある。
今生きている全ての人には、両親がいて、祖父母がいて、曾祖父母がいて‥‥
世代が引き継がれる毎に、いつの時代にも介護される人と、介護する人がいて、看取る人と看取られる人がいた───。
その姿や、その光景を、例え知らなくても、介護の立場になる時が必ず訪れる。
人が自分自身の将来のために、健康に気を使い、健康診断(がん検診など)を受けるのと同じように、私たちは介護という日のために、準備と心構えを常に持ち、慌てる事なく対処できるよう、努力をしていなければならない。
しかし準備していた人たちは、先人の教訓の通り、既に高台に移り住んでいた人もいた。
又、柔らかい火山灰で出来た地面を地盤補強工事し、家屋が倒壊しなかった家もあった。
各々が、やがて訪れる「その日」のために、家族で話し合い、心の準備をしておく事で、もっと違った考えや、余裕が生まれれば、悲惨な結末を回避できるのではないだろうか───。
『NHKスペシャル 私は家族を殺した~“介護殺人”当事者たちの告白~』では、解決策の提起は行われていない───。
そして7月13日(水)午前0時10分から再放送される。
やや話は逸れるかもしれないが、
その教えは、何も災害だけではない。
東日本大震災でも、先日の熊本地震でも、「まさか」が起こり、住む家を失い、家族を亡くした人が大勢いる。
健康診断や各種検査が、自身の心と身体のための準備なら、それと同じように「介護の来る日」の準備も怠ってはならないのではないか───。