JCRファーマ株式会社(本社:兵庫県芦屋市)は1月19日、かねてより研究を進めて来た『血液脳関門通過技術「J-Brain Cargo®」を適用した、血液脳関門通過型ハンター症候群治療酵素製剤「開発番号:JR-141」(血液脳関門通過型遺伝子組換えイズロン酸2スルファターゼ)』について、2016年12月に、独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA)に治験計画届を提出、所定の調査が終了し、第I/II相臨床試験を、本年3月に開始予定であると発表した。
血液脳関門(BBB:Blood-Brain Barrier)は‥‥
様々な有害物質から、脳の神経細胞を守るために、血液から脳内への物質の移行を制限する防御機能の事で、脳の恒常性維持に不可欠となっている。
これによって、脳の神経活動のエネルギー源となる栄養素(グルコース、アミノ酸、ヌクレオチドなど)やブドウ糖などの必要な物質は、脳内に選択的に輸送されるが、それ以外の多くの物質は、この防御システム(バリア機能)により脳内に自由に入る事が出来ない。
また、何らかの要因で脳毛細血管内皮細胞内に入ってしまった不必要な物質は、排泄を司るP糖タンパク質などの排泄トランスポーターがそれらを血中へ戻す事により、脳内への侵入が防がれている事も知られる。
ハンター症候群は、日本で最も多く報告されているムコ多糖症II型(MPS:Mucopolysaccharidosis II)で、体内のライソゾーム酵素(イズロン酸-2-スルファターゼ)が生まれつき欠損する事で、全身の細胞にムコ多糖が蓄積する遺伝性代謝異常症です。
※ムコ多糖は、アミノ酸を含む多糖(ヒアルロン酸やコンドロイチン硫酸)の総称です。
ムコ多糖症は7つに分類され、ハンター症候群はII型と呼ばれ、中枢神経障害を伴う重症型と、中枢神経障害を伴わない軽症型に大別されていますが、疾患の重なる型もあります。
ハンター症候群は、ムコ多糖症の中で唯一、男児にのみ遺伝する(X染色体連鎖劣性遺伝)病態で、国内での患者数は2009年まででは、255例が報告されている。
よく見られる症状は、記憶・学習障害、発達の遅れ、低身長、骨格変形、特徴的な顔立ち、固い関節、お腹の膨れ(肝脾腫)、臍・鼠径ヘルニア、心弁膜症(心雑音)、中耳炎、難聴などです。
これらの症状は赤ちゃんの頃は目立たず、3~5歳頃になるとハッキリして来ます。重症の患者では、徐々に症状が進行し10歳代になると、歩けなくなる・自分で食事が出来なくなる・自発呼吸が困難になる・寝たきりになる、などの状態になります。
また軽症の患者では、軽度の低身長や心雑音のみで、大人になるまで診断されない事もあります。
ハンター症候群に対する既存の治療酵素製剤(エラプレース)は、血液脳関門(BBB:Blood-Brain Barrier)を通過出来ない為、脳内で薬の効力を発揮できず、中枢神経症状に効果が期待できないと言う課題があった。
血液脳関門通過技術とは‥‥
本来は脳への薬効が制限される事で、治療薬が効果を発揮出来ず、中枢神経症状に対しては、髄腔内投与などの特殊な投与方法も試みられているが、患者にとって負担が大きい。
また、血液脳関門のために、脳実質全体に薬剤が到達出来ないなどの問題が懸念されている。
治験計画届が出された、新規酵素製剤「JR-141」は、マウスやサル(=治験申請に霊長類は必要不可欠)を用いた動物試験で、通常の酵素製剤と比較して、静脈内投与による「JR-141」の脳への薬剤移行や中枢神経系障害の改善効果において、脳内の濃度が数十倍に上昇する非常に良好な結果を示した。
血液脳関門通過技術は、ハンター症候群の原因となっている欠損酵素「イズロン酸2スルファターゼ」を、遺伝子組換え技術によって血液脳関門通過型の酵素にする。
これらの結果を踏まえ、ハンター症候群(ムコ多糖症II型)の患者を対象として、2017年3月より第1/2相臨床試験を実施する予定となった。
今後、JCRファーマ株式会社は、「JR-141」に引き続き、病態発症に中枢神経系が関与している他のライソゾーム病に対して、『J-Brain Cargo®』を適用した治療酵素の開発を順次行い、希少疾病治療薬のスペシャリティファーマとして、より多くの患者の治療に貢献出来るよう取り組んで行くとしている。