国立研究開発法人 国立がん研究センター(所在地:東京都中央区築地)と第一三共株式会社(本社:東京都中央区日本橋)は3月1日、悪性脳腫瘍(神経膠腫(しんけいこうしゅ)/グリオーマ)・急性骨髄性白血病・胆管がん・骨肉腫(軟骨肉腫)などの悪性腫瘍に対する新規分子標的薬として、世界で初めて、変異型イソクエン酸脱水素酵素IDH1に対する選択的阻害剤(開発コード:DS-1001)を共同開発し、人(患者)を対象に、第I相臨床試験を開始したと発表しました。
プレスリリース:http://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/press_release_20170301.html
今回の第I相臨床試験は、標準的治療法の無い、再発のIDH1変異のある神経膠腫(グリオーマ)の患者を対象とするもので、国立がん研究センター中央病院(東京都中央区)にて実施するほか、他の施設でも実施されます。
尚、本研究は、国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)・革新的がん医療実用化研究事業、及び国立がん研究センター研究開発費等の支援を受け、国立がん研究センター中央病院 臨床研究コーディネーター室と、第一三共株式会社で行っている。
■ 神経膠腫(しんけいこうしゅ/グリオーマ)とは、脳に発生する悪性腫瘍で、転移性を除く原発性脳腫瘍の約30%を占めます。 脳に染み込むように広がって行き、正常な脳との境界が不鮮明で、手術による全摘出は困難です。
通常は再発予防の目的で、手術後の放射線治療や化学療法などが必要となりますが、悪性神経膠腫(脳腫瘍)の多くは、数ヵ月~数年で再発し、その際、更に治療が困難になっているのが現状で、その為、新規薬剤開発が強く求められています。
尚、グレード1は小児に好発する脳腫瘍で、良性腫瘍がほとんどであり、手術で全て摘出すれば再発は稀です。
今回開発した「変異型IDH1選択的阻害剤(DS-1001)」は、悪性脳腫瘍(神経膠腫/グリオーマ)・急性骨髄性白血病・胆管がん・軟骨肉腫などの悪性腫瘍では、*IDH1/IDH2遺伝子に高頻度に変異が見られる事に着目。
*IDH1(Isocitrate DeHydrogenase 1)とは……
イソクエン酸脱水素酵素を造らせるために指示する遺伝子で、この酵素が細胞質の中を流体充填する事で、脳細胞などを潜在的に有害な活性酸素分子から保護しています。
【用語説明出典:U.S.National Library of Medicine - IDH1 gene - Genetics Home Reference
https://ghr.nlm.nih.gov/gene/IDH1 】
国立がん研究センター研究所の造血器腫瘍研究分野・北林一生研究分野長の研究グループが、変異型IDH1/2を阻害する事により、IDH1/2変異を持つ急性骨髄性白血病の“*がん幹細胞”が消失する事を発見した。
*がん幹細胞とは……
分化せず自身を増殖させる事が可能な自己複製能力と、複数種の細胞へ分化可能な多能性(化学療法抵抗性など)を有し、特定の組織を再構成できる細胞で、がん幹細胞は、がんを再生する能力を持つ細胞の事。
悪性脳腫瘍は、正常脳との境界が不明確な為、手術で摘出後、残存腫瘍に対しての化学療法が血液脳関門と言うバリアー機能で阻止され、届きにくいと言う難点があった。
しかし「変異型IDH1選択的阻害剤(DS-1001)」は、脳内移行性を有し、患者由来組織移植(PDX)モデル等を用いた非臨床試験(実験動物マウス)では、IDH1変異を持つ悪性脳腫瘍、急性骨髄性白血病、軟骨肉腫の増殖を抑制する事が示されていると言う。
これまで開発されて来た悪性腫瘍に対する分子標的薬は、主に、がん細胞で活性化や高発現している分子を標的としたものでした。
これらの標的分子は、正常な細胞でも一定の発現がある為、正常な細胞にも作用し、副作用が生じる事がありましたが、今回開発した「変異型IDH1選択的阻害剤(DS-1001)」は、がん細胞だけで発現する“変異型IDH1”を選択的、及び特異的に阻害し、正常細胞で発現する野生型のIDH1に対する作用は極めて弱い事が示されている。
悪性脳腫瘍のIDH1変異は、グレードⅡ・Ⅲの神経膠腫(*星細胞腫(せいさいぼうしゅ)・*乏突起膠腫(ぼうとっきこうしゅ))と診断された患者の7割以上に認められ、これらのIDH1変異のある神経膠腫は、30-50歳に多い腫瘍で、再発を繰り返し、治療経過も長い事から、「変異型IDH1選択的阻害剤(DS-1001)」の効果が期待されています。
*星細胞腫とは……
脳、又は脊髄の星細胞と呼ばれる星の形をした小さな細胞から発生する腫瘍。
*乏突起膠腫……
脳と脊髄に於いて、神経細胞を覆って保護している乏突起細胞から発生する、極めて稀で増殖の遅い腫瘍。
日本国内での脳腫瘍の発生頻度は、年間におおよそ2万人と考えられます。(国立がん研究センター 希少がんセンター2016-05より)
悪性脳腫瘍は「治らない病気ではない」と、記述しているWebもありますが、最も厄介なのは、再発した場合や、脳の深部に発症した場合など、一次治療で寛解しても、次の治療が限定される病態です。
特定の病院でしか治療出来ないと言うのは、治療法の確立とは言えません。
手術→→放射線→→化学療法→//→その後「再発」した時の標準治療の確立があってこそ、治る病気と言えるでしょう───。