「自分のせいで、子どもを病気にさせたことが苦しかった」
と、妊娠中に寄生虫のトキソプラズマに感染した女性の言葉です。
感染を知らされた時、治療に使う薬は、患者数が少ない事などから、日本では承認されていなかった。
薬は患者が自費でスイスから個人輸入する必要があったのです。
生まれた子供が1歳になるまで飲む抗菌薬は、日本では未承認。
その為、個人輸入していたと言う。
入手に掛かる費用は計数十万円に上り、女性は理不尽さを痛感していた──。ここまで朝日新聞デジタル2016年11月6日06時00分より引用抜粋 http://www.asahi.com/articles/SDI201611041710.html
───製薬企業が、年間症例の少ない薬剤の開発に消極だったのは、止むを得ないかもしれない。
しかしここ数年でその意識も変わりつつあるように思います…。
サノフィ株式会社(本社:東京都新宿区)は10月5日、胎児における先天性トキソプラズマ症の発症抑制剤として開発中の「スピラマイシン」について、厚生労働省に製造販売承認申請を行ったと発表しました。
国内に於いて、適応外ではあるがアセチルスピラマイシンが標準的に治療に用いられている。
アセチルスピラマイシンは、スピラマイシンの70%の投与量で同等の血中濃度が得られる。
血漿中濃度はアセチルスピラマイシンが1,189μg・min/mL、スピラマイシンが833μg・min/mL)
しかし現在、国内ではトキソプラズマが適応症となっていない。保険適応外薬である。
「スピラマイシン」は海外に於いて、妊婦のトキソプラズマ感染症の効能・効果で承認。
国内申請された、妊娠中のトキソプラズマ初感染が否定できない場合、胎児への感染を防ぐ目的で、
「スピラマイシン」として1日量6,000,000~9,000,000国際単位(UI)を、
1日2~4回に分けて経口投与する。
トキソプラズマ症(toxoplasmosis)は、加熱不十分な食肉、飼い猫のトイレ掃除、園芸、砂場遊び、又は洗浄不十分な野菜や果物を介して、トキソプラズマ原虫(Toxoplasma gondii)が、口から体内に入り発症する事があります。空気感染、経皮感染はしません。
通常、健康な成人、又は小児がトキソプラズマ症(後天性トキソプラズマ症)に感染しても、殆どの場合、免疫系の働きにより症状はありませんが、約1割(10%)に風邪のような症状が出現し、やがて数週間で回復します。
しかし、妊婦が初めてトキソプラズマに感染した場合に、トキソプラズマが胎盤を通過して胎児にも感染する『先天性トキソプラズマ症』では、死産、及び流産だけでなく、胎児に水頭症、精神・運動機能障害や視力障害等の重篤な症状をもたらす事があります。
「先天性トキソプラズマ症」での胎児感染のリスクは、母体が感染した時期によって異なり、妊娠初期の感染では、胎児感染率は低いものの症状は重度となります。
妊娠経過に伴い胎児感染率は増加し、妊娠末期では60~70%に達しますが、症状は軽度となります(羊水中の先天性トキソプラズマ症の出生前診断1994-Hohlfeld P, Daffos F, Costa JM、及びトキソプラズマ症感染の為の妊娠中絶1994-Berrebi A, Kobuch WE, Bessieres MHより)。
国内では、先天性トキソプラズマ症の発生数に関する疫学的データはありませんが、出生10,000人当たり1.26人(出生数は年間130~1300人と推計)との推計値が報告されています(小児慢性特定疾病情報センター)。
海外ではスピラマイシンが、妊婦のトキソプラズマ症に対し、胎児への感染を減らし、重症度を軽減する事が示されている事から、標準的な治療薬として推奨されています。
しかし日本国内では、現在トキソプラズマ症を適応症として承認されている薬剤はありません。
このような背景から、日本産科婦人科学会よりスピラマイシンの開発要望が出され、厚生労働省の「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」に於いて、医療上の必要性が高い薬剤として評価がなされ、2014年11月、サノフィが開発要請を受けました。
また、スピラマイシンは、日本で2016年12月にオーファンドラッグとしての指定を受けています。
スピラマイシンは、抗菌活性に加え、抗トキソプラズマ活性も有するマクロライド系抗生物質であり、1955年にフランスで承認されて以降、70カ国以上で細菌感染症治療薬として承認・販売されています。
また、妊娠中のトキソプラズマ症に対しても70カ国以上で承認され、30年以上に渡り使用されています。