厚生労働省の薬事・食品衛生審議会 医薬品第二部会は11月6日、サノフィ株式会社(本社:東京都新宿区)が2017年2月27日に製造販売承認申請していた、「既存治療で効果不十分(重症)なアトピー性皮膚炎(成人患者)」の新規治療薬、「デュピクセント®皮下注300mgシリンジ(一般名:デュピルマブ=dupilumab、遺伝子組換え)」について、新有効成分含有医薬品として承認を了承した。
早ければ、約1ヶ月ほどで正式承認される。
「デュピクセント®皮下注300mgシリンジ」は、最適使用推進ガイドラインの対象品目で、米国食品医薬品局(FDA)では中等症から重症のアトピー性皮膚炎成人患者に対するBreakthrough Therapy(画期的治療薬)に指定している。
再審査期間は8年。
日本皮膚科学会の診断基準によるアトピー性皮膚炎の定義は、「憎悪・寛解を繰り返す、瘙痒(そうよう⇒掻痒の字は間違い)のある湿疹を主病変とする疾患で、患者の多くはアトピー素因を持つ」とあります。
アトピー素因とは、日本皮膚科学会が定めた概念で、アレルギーを起こしやすい体質が家族や自分にある場合を【アトピー素因がある】と言いますが、アトピー性皮膚炎を発症する人が、必ずこの体質であると言う訳ではなく、根本的な原因はハッキリと分かっていませんでした。(アステラス製薬 アトピー性皮膚炎・病気の基礎知識より: https://www.astellas.com/jp/health/healthcare/ad/basicinformation02.html)
その原因究明に大きく近づく研究報告が、2016年11月21日(日本時間22日午前1時)に、英国科学雑誌「Nature Immunology」のオンライン版で公開された。
発癌性などの毒性が特に高い化学物質ダイオキシン類(大気汚染物質)が、細胞質にある「転写因子AhR(芳香族炭化水素受容体)」を活性化させる事で、神経を成長させるタンパク質「artemin(アルテミン)」を高発現させ、皮膚表面の表皮内へ神経が伸長し、過剰に痒みを感じやすい状態を作り出す事が分かったと言う――。
こうして過剰状態になった皮膚表層に、環境因子(ダニ、花粉、細菌、カビ、食物など)が加わる事で、慢性に経過する痒みを伴う、慢性炎症性疾患となる。
中等症~重症のアトピー性皮膚炎は、発疹を特徴とし、持続する激しい難治性の痒み、皮膚の乾燥、亀裂、紅斑、痂皮(かひ=かさぶた)、毛細血管出血を伴い、更には、体力を消耗させる瘙痒(そうよう)は、患者にとって最も大きな負担となる症状で、睡眠や、生活の様々な局面に大きな影響を与えるほどの耐え難い症状になります。
アトピー性皮膚炎は、湿疹性疾患の中でも最も頻度の高い疾患であり、治療では、皮膚バリア機能の改善や、保持のための保湿外用薬を継続的に使用し、皮膚の炎症に対してはステロイド外用薬、タクロリムス外用薬(免疫抑制外用薬)などの抗炎症外用薬の使用が推奨されている。
これらの治療で効果不十分な場合に、免疫抑制剤の経口シクロスポリンの間欠投与が行われる。
「デュピクセント®(デュピルマブ)」 は、IL-4とIL-13という2つのタンパク質のシグナル伝達を特異的に阻害するように設計されたヒトモノクローナル抗体です。
IL-4とIL-13の活性増強は、アトピー性皮膚炎に於ける持続する炎症を促進する上で、中心的な役割を果たしていると考えられています。
「デュピクセント」の作用機序。
即時型アレルギー促進に働くIL-4(インターロイキン-4タンパク質)と
アレルギー抑制に働くIL-13(インターロイキン-13タンパク質)を同時に阻害する。
これによって炎症を止め、痒みも止めると考えられる。
「デュピクセント®(デュピルマブ)」は現在、既存治療でコントロール不良の中等症から重症のアトピー性皮膚炎の成人患者を対象とした治療薬です。
「デュピクセント®(デュピルマブ)」は、グローバルLiberty AD 臨床試験プログラムの第III相ピボタル臨床試験の、SOLO-1試験とSOLO-2試験の単独投与、及びCHRONOS試験のステロイド局所投与併用をそれぞれ検討した。
結果、これら3試験のいずれに於いても、「デュピクセント®(デュピルマブ)」は単独投与、又はステロイド局所投与との併用でアトピー性皮膚炎の症状・徴候を有意に改善した。
この結果を踏まえ、2017年3月28日、アトピー性皮膚炎に対する初めての生物学的製剤として米国食品医薬品局(FDA)より承認を取得。
2017年9月28日には、欧州医薬品庁(EMA)で承認を取得していた。
【用法・用量】は通常、成人には、投与初日に600mgを1回皮下投与し、その後は300mgを2週に1回投与して用いる。
今回、ほとんど日を置かず、日本国内でも承認が了承された事で、ステロイド外用薬などの抗炎症外用薬で効果不十分な成人アトピー性皮膚炎に対して、新たな治療選択肢を提供する事になります。