アルツハイマー病の新薬として最近、注目されていた3種類の薬剤について、1月~2月、相次いで臨床試験が失敗に終わり、開発中止の論文の掲載、又は発表がなされた事が分かった。
研究者たちが注目していた、アルツハイマー病に関係すると考えられている、脳のアミロイドβ(ベータ)と呼ばれるタンパク質を標的に、蓄積する前に除去を促す新薬の臨床試験で、ことごとく、認知機能の低下の有意な抑制は示されなかった、と報告された。
◆Journal of the American Medical Association(JAMA⇒ジャーナル・オブ・ジ・アメリカン・メディカル・アソシエーション=米国医師会誌)の2018年1月9日号に掲載された論文で、アルツハイマー病患者に対して選択的セロトニン5-HT6受容体拮抗薬であるIdalopirdine(イダロピルジン=大塚製薬株式会社/ルンドベック社)の有効性が示されなかったとする臨床試験の成績が報告された。
◆その後、Eli Lilly社(日本イーライリリー社)が開発を目指していた抗アミロイドβ(Aβ)抗体薬のsolanezumab(ソラネズマブ)についても、同薬による認知機能の低下の有意な抑制は示されなかったとする臨床試験の結果が「New England Journal of Medicine」1月25日号に掲載された。
◆また、米Merck社(メルク・アンド・カンパニー/MSD社)は2月13日、アミロイド前駆体タンパク質βサイト切断酵素1の低分子阻害剤「ベルベセスタット」(MK-8931)を、アルツハイマー病による健忘型軽度認知障害(Prodromal AD)患者を対象に評価する第3相試験を中止する事を発表した。試験のデータは今後の学会で発表する予定だと言う。
今回の決定は、安全性中間解析に基づき、全般的な満足や恩恵、及びリスクを検討した結果、試験を継続した場合のリスクを上回る満足な結果が得られる可能性は低いと結論づけた。
<アミロイドβのみ標的とした研究に限界か>
有望視されていたアルツハイマー病の新薬の開発が相次いで中止され、一部の専門家から、研究の方向性を疑問視する声が上がっている。
その一方で、これまでのアルツハイマー病研究で見逃していたものが何だったのか?
研究者たちによる新たな探求が続けられている──。
米アルツハイマー病協会(AA)のJames Hendrix氏は…
「10年前に比べ、研究資金が拡充されつつあり、アミロイドβ以外にも、タウやニューロンの炎症、脳のエネルギー利用といった様々な因子について、研究が行われるようになって来た──。アルツハイマー病を発症しても、記憶力をある程度維持したまま、他の原因で死亡するまで進行を遅らせる事ができれば、治療の成功と言えるだろう」
と、話している。
これまで主犯格と見られてきたアミロイドβ……
ところが10年に及ぶ臨床研究・試験の結果、アミロイドβを蓄積させる『黒幕』が存在するかもしれない、と言う報告が相次いだ事で、これまでに注ぎ込んだ莫大な研究開発費は、無駄に終わった、のか?
いや、そうではない。
これは次なる目標への挑戦の節目と言えるだろう──。
人間の英知は、まだまだAIに追い越される事はない! あらゆる謎が解き明かされるまで、人間の挑戦は続く──。