大鵬薬品工業株式会社(本社:東京都千代田区)は9月28日、新規抗悪性腫瘍剤「ヨンデリス®点滴静注用0.25mg/1mg」(一般名:トラベクテジン)について、「悪性軟部腫瘍」の効能・効果で、厚生労働省の独立行政法人・医薬品医療機器総合機構(PMDA)より、製造販売承認を取得した。
但し、10月31日現在、薬価収載はまだされていない為、今月下旬以降になると見られる。
悪性軟部腫瘍(サルコーマ=sarcoma)は、臓器や骨組織以外の脂肪,筋肉,血管、神経、線維組織、リンパ管などに生じる腫瘍の中で、腫瘍が発生した部位だけでなく、肺、骨、リンパ節などに転移をおこす可能性を持った腫瘍を、悪性軟部腫瘍と言う。
悪性軟部腫瘍の発症頻度は、人口10万人当たり2人に発生すると言われ、国内の推定患者数約5,000人と言われる希少疾病です。
また種類も多く、中でも比較的多くみられる腫瘍が、悪性線維性組織球腫(--きゅうしゅ)です。その他、脂肪肉腫、横紋筋肉腫、滑膜肉腫(かつまく--)、平滑筋肉腫、悪性神経鞘腫(--しょうしゅ)、線維肉腫など、色々な腫瘍があります。
多くの悪性軟部腫瘍の初期症状は、腫瘤(しゅりゅう=コブ)の形成で発病するので、皮下組織に出来た場合は、容易に発見できます。
しかし、大腿(太もも)や臀部(おしり)のように、脂肪や筋肉がたくさん集まっている部位で、深い場所に発症すると、腫瘤(=コブ)が余程大きくならなければ見つからない事もあります。
また殆どの場合、痛みを伴うことはありません。
深部の場合、X線検査では分からない事も多く、CTやMRI検査が必要となる。
ここ数年の研究で、悪性軟部腫瘍の一部において、腫瘍特異的な染色体転座と、それに由来する融合遺伝子が存在することが分かっています。
染色体転座とは、異なる染色体上に存在する2つの遺伝子が切断され、他の染色体と融合したものです。
この染色体転座により、新たに発生した融合遺伝子は、腫瘍を発生させる原因となっている可能性が高いとされています。
悪性軟部腫瘍の治療は、化学療法(抗がん剤)や放射線療法が効くこともありますが、増大を止める事が出来ない場合が多く、腫瘍を手術で確実に切除する事が基本になります。
しかし腫瘍が大きく、切除が不可能な場合には、腕や脚(あし)などを切断する事が必要になる場合もあります。
治療成績は、腫瘍の種類によって差異がありますが、悪性軟部腫瘍全体としては、手術後の5年生存率は64%。治療を開始した時点で転移が無い場合には、5年生存率は75%と言う難治性悪性腫瘍である。
腫瘍の増殖や肥大は、この正常ではない染色体転座したDNAから、腫瘍発生の異常シグナルが出続ける為、手術しても再発したり、転移したりを繰り返します。
新規抗悪性腫瘍剤「ヨンデリス点滴静注用」は、このDNA染色体に結合し、細胞分裂、遺伝子転写、DNA修復機構を妨げる事で、効果を示す抗悪性腫瘍剤です。
新たに承認された「ヨンデリス点滴静注用」は、カリブ海に生息するホヤの一種『エクテインアシジア・トゥルビナータ(Ecteinascidia turbinata)』から単離された天然物で、現在は合成方法が確立されている。
そう言えば、2015年のノーベル医学生理学賞を受賞した大村智氏が、土中微生物から、寄生虫に効果のある抗生物質「エバーメクチン」を発見した事は、いまだに賞賛が鳴り止まない功績であるが、微生物や放線菌(ストレプトマイシンなど=結核)、胞子菌類(ペニシリンなど=感染症)からは過去にも、様々な抗生物質が誕生している。
今回の「ヨンデリス点滴静注用」が、まさかのホヤから単離生成された薬剤だとは、何んと凄い事だろうか
ホヤは日本、韓国、フランスやチリなどで食材として用いられているそうだが、もしかしたら海洋生物には、我々の知らない驚異の「力」を秘めたものが、まだまだ無数にいるかもしれない────。