アストラゼネカ株式会社(日本法人本社:大阪市北区/ 本社:英国ロンドン)が国内承認申請していた、「上皮成長因子受容体(EGFR)チロシンキナーゼ阻害薬に抵抗性のEGFR T790M変異陽性の手術不能または再発非小細胞肺がん」を効能・効果とする、新有効成分含有治療薬「タグリッソ錠®40mg、同80mg(一般名:オシメルチニブメシル酸塩)」について、厚生労働省の薬事食品衛生審議会・医薬品第二部会は2月26日、製造販売を承認した。
本剤は、日本肺癌学会が早期承認を求めていたもので、再審査期間は8年となる。
肺がん(臨床的に治療方法の違いから、小細胞肺がん、非小細胞肺がんの2つに区別)は、男性および女性双方のがん死因の第1位で、全てのがんによる死亡の約3分の1を占めています。
これは、乳がん、前立腺がん及び大腸がんの死亡合計を上回ります。
非小細胞肺がんでは、早期発見・早期治療をすれば5年生存率は50~70%ですが、肺内のリンパ節に転移した場合、5年生存率は30~50%に下がってしまいます。
診断時に胸腔内にがんが留まっていた場合(限局型)で、5年生存率20~30%、胸郭外に転移があった場合(広範型)で、2年生存率10~20%です。
非小細胞肺がんの治療第一選択肢は、病巣が肺の片側に限局している場合、手術による病巣の切除ですが、反対側のリンパ節にも転移が認められた場合は、抗がん薬か、手術不能な場合は、抗がん薬と放射線治療が主体となります。
手術不能、または再発非小細胞肺がんに対する治療薬として、上皮成長因子受容体(EGFR)チロシンキナーゼ阻害剤の「*イレッサ」が、EGFR変異陽性の肺腺がん、女性、非喫煙者といった特定の患者で有効性が高く、生存期間の延長が期待できるようになりました。
(*「イレッサ」はEGFR変異陰性の患者には殆ど効果が期待出来ないため、他剤使用)
しかし効果をもたらす反面、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤による治療を受けている患者の約3分の2は、「EGFR T790M変異」に関与する耐性が生じる。その為、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤を投与しても、殆どの症例で、1年程度で耐性化し病状が進行する。
但し、「EGFR T790M変異」陽性肺がんに対する治療薬が市場には無いため、日本肺癌学会が2015年7月、「タグリッソ錠®40mg、同80mg」の早期承認を厚生労働相に求めていた。
「タグリッソ錠®40mg、同80mg」は、2015年11月18日に米国で臨床試験開始から僅か2年半で承認を取得。そして2016年2月3日に欧州で承認を取得しました。それに続いて日本でも極めて異例の優先審査で承認を取得したものです。
日本では、「EGFR T790M変異」陽性の非小細胞肺がん患者数は約1万9700人~3万5300人と推測されている。投与には、EGFR T790M変異の遺伝子変異があるかどうかを検出するため、厚生労働省はコンパニオン診断薬も承認する方針で、本剤が市場投入されるのは6月下旬頃と見られている。
「タグリッソ錠」は1日1回経口投与で用いる。
抗悪性腫瘍剤/チロシンキナーゼ阻害剤「ザーコリ(一般名:クリゾチニブ)などと同様、「タグリッソ錠」は肺がん治療に精通し、リスクなどについても十分管理できる医師・医療機関・管理薬剤師のいる薬局のもとでのみ投与する。
患者は、処方医から交付される同剤の効果や副作用について十分な説明を受けた事を証明するカードが無いと、薬を受け取れない。
“イレッサ”は2002年7月に手術不能、または再発非小細胞肺がんを適応に承認された。しかし、その後急性肺障害や間質性肺炎の報告が相次ぎ、同年10月15日には緊急安全情報が出される事態となった。しかし、関係者らの尽力によって間質性肺炎症例の集積が積極的に行われ、それらの解析が行われ、危険因子の探索が続けられた。
2004年になって、米国から上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子変異を持つ症例で効果が高いという報告が出された。
その結果、肺がん治療において「EGFR T790M変異」群を検出、区別する事が重要となり、EGFR変異がなければ“イレッサ”は効かない、EGFR T790M変異にのみ効果を示すことが証明された。