日本での生殖補助医療(人工授精治療)は、近年、晩婚化や出生率低下による少子化が急速に進んでおり、不妊治療は少子化対策の一端を担うものとして、重要視されている。
その一方で、ホルモン分泌が不安定な“難治性不妊症”の治療では、最近、体外受精・胚移植や卵細胞質内精子注入法など、新たな生殖補助医療が登場し実施されて来ています。
その生殖補助医療において、「黄体ホルモン」は着床や妊娠の維持のために重要な役割を果たしており、治療の際には、体外からの黄体ホルモン補充が必要になります。
黄体ホルモンが不十分の場合、着床失敗や流産のリスクが高くなり、その分、治療を受ける患者の負担も増す事になります。
本年1月22日、富士製薬工業株式会社(本社:東京都千代田区)は「生殖補助医療における黄体補充」を効能・効果として、プロゲステロン(黄体ホルモン)を有効成分とする天然型黄体ホルモン製剤「ウトロゲスタン®腟用カプセル200mg」の製造販売承認を取得し、2月18日から販売を開始した(薬価基準未収載)。
「ウトロゲスタン」は、海外での黄体ホルモン補充が必要な諸疾患の治療薬として30年以上使用され、2016年1月現在、世界80カ国以上で承認・販売されています。
この状況を踏まえ、日本受精着床学会などから、本製剤の早期開発・承認の要望書が厚生労働省に提出され、2010年4月の「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」において、高い評価が得られた。
国内の第3相臨床試験(対象:体外受精・胚移植を受ける女性)において有効性と安全性が確認された為、今回の承認となった。
生殖補助医療では、プロゲステロン投与による黄体ホルモン補充を行う事で、妊娠率が向上する事が確認されており、海外では、標的臓器である子宮に、プロゲステロンを効果的に送達できる膣剤の使用が主流となっていますが、日本では2014年12月に、ようやくプロゲステロンの膣錠製剤(商品名:ルティナス)が臨床使用できるようになりました。
今回承認された「ウトロゲスタン腟用カプセル」は、生殖補助医療における黄体補充の適応を持つプロゲステロン膣製剤で、ルティナスに次ぐ日本で2番目の膣製剤となる。
臨床試験では副作用(臨床検査値異常を含む)が16.9%に認められている。
主な副作用は、卵巣過剰刺激症候群(2.5%)、外陰膣そう痒症、不正子宮出血、性器出血がそれぞれ1.9%であった。
重大な副作用として頻度は不明だが血栓症が示されている。
尚、「ウトロゲスタン®腟用カプセル200mg」と同一成分であるルティナス膣錠は、適応は同じだが用法・用量が異なるので、医師の指示に従う。
また「ウトロゲスタン®腟用カプセル200mg」は、添加物にラッカセイ(ピーナッツ)油を有している為、ピーナッツアレルギーのある患者には投与禁忌である事など、相違点には注意しなければならない。
適応は「生殖補助医療における黄体補充」で、1回200mgを1日3回、胚移植2~7日前により経腟投与する。
妊娠が確認できた場合は、胚移植後9週(妊娠11週)まで投与を継続する。
効能・効果
【経腟投与】
・卵巣機能不全、又は卵巣不全(卵子提供を受ける)に対するプロゲステロン補充
・体外受精(IVF)における黄体補充
・原発性/続発性不妊(特に排卵障害)における自然周期、又は誘発周期の黄体補充
・妊娠12週までの黄体機能不全による流産リスク、又は反復流産の予防。
プロゲステロンのもつ他のすべての適応で、経腟投与は経口投与の副作用(眠気)を避けるための代替となる。
【経腟投与】
各カプセルを腟に深く挿入しなければならない。
・妊娠継続率
妊娠12週目の妊娠継続率は25.2%(55/218例)であった。
・流産/稽留流産率
妊娠12週目までの流産/稽留流産率は4.6%(10/218例)であった。
本剤投与群とプロゲステロンゲル群の間には統計学的な有意差は認められなかった。(p=0.990、Fisherの正確検定)
・有害事象
有害事象は9.6%(21/218例)に認められた。2例以上に発現した有害事象は、卵巣過剰刺激症候群3.2%(7例)、腟出血1.4%(3例)、悪心/嘔吐0.9%(2例)であった。