根本的な治療法の無い極めて重篤な伴性劣性の遺伝性希少疾患、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)治療剤2品が、本年2月、国内で初めての第1/2相臨床試験で、被験者への投薬を開始した。
デュシェンヌ型筋ジストロフィーは、民族差なく、新生男児の約3,500人に1人で発症する、最も頻度の高い遺伝性筋疾患です。
2~5歳から軽度の自立障害が起こり、年齢を重ねると共に筋萎縮が進行して、各種運動障害が起き、最終的には心不全・呼吸不全等により、多くは20~30歳代で死に至る、極めて重篤な伴性劣性の遺伝性希少疾患で、発症原因は、患者の筋細胞で"ジストロフィン"と呼ばれる、筋肉組織を作るタンパク質の遺伝子に変異が起こり、正常な"ジストロフィンタンパク質"が産生されない事で、重篤な筋力低下を示します。
現在、根本的な治療法は無く、進行を遅らせるステロイド剤以外に有力な治療法は存在せず、新たな治療薬の開発が期待されています。
今回第1/2相臨床試験(治験)が行われる2つの治療薬は、共に核酸医薬品で、「エクソン・スキップ治療」と呼ばれているもの。
一つ目は、日本新薬株式会社(本社:京都府京都市南区)が2月2日から第1/2相臨床試験を開始した、核酸医薬品『NS-065』。
本薬は、国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター(東京都小平市)と日本新薬が共同開発した薬剤で、エクソン53スキップ(注)により、ジストロフィン遺伝子の一部の遺伝情報を読み飛ばす事によって、機能するタンパク質を発現させ、筋機能の改善に繋がる事が期待される薬剤である。
本薬剤は、国立精神・神経医療研究センターにおいて、2013年6月~2015年3月まで医師主導の早期探索的臨床試験で、良好な結果を得た事から、厚生労働省より先駆け審査指定制度の指定を受け、2月2日より第1/2相臨床試験へ進み、患者への投与が開始された。
もう一つは、第一三共株式会社(本社:東京都中央区日本橋)が2月25日から第1/2相臨床試験を開始した、核酸医薬品『DS-5141b』。
本薬は、産業革新機構などの官民ファンド・株式会社Orphan Disease Treatment Institute(希少疾患治療研究所=所在地:東京都品川区)と第一三共が共同開発中の薬剤で、エクソン45スキップ(注)により、ジストロフィン遺伝子から不完全ながらも機能が保持されたジストロフィンタンパク質を産生する事で、筋機能の改善に繋がる事が期待される核酸医薬品である。
本薬剤は、第一三共独自の修飾核酸であるENA®オリゴヌクレオチドを有効成分とし、核酸の糖部フラノース環の2′位と4′位をエチレンで架橋した修飾核酸医薬品で、2013年から開発が始まり、2月25日、被験者への投薬を開始した。
両核酸医薬品は、いずれも2020年までに国内製造販売の承認を取得する事を目標に、開発を進めて行くとしている。
難病や希少疾患治療剤の開発には、病気の原因がある程度分かっているものと、殆ど判明していないものがあり、福音を待ち望む患者にとっては、一日千秋の思いで新たな治療薬の登場を待ち望んでいます。
新薬の開発には、莫大な資金と膨大な時間を必要としていますが、病気に苦しむ患者へ吉報を届けるべく、日々、様々な治験薬が創製されています。
その中から、一つでも実用域で使用できる薬剤が登場してくれる事を、切に望んで止みません。
病態英語原文:
Duchenne muscular dystrophy: デュシェンヌ型筋ジストロフィー
Becker muscular dystrophy : ベッカー型筋ジストロフィー
Facio-Scapulo-Humeral dystrophy : 顔面肩甲上腕型ジストロフィー
Hereditary Neuropthy : 遺伝性ニューロパチー
Spinal Muscular : 脊髄筋萎縮症
Myotonic Dystrophy : 筋緊張型ジストロフィー
Congenital Myopathy: 先天性筋疾患(先天性ミオパチー)
Limb Girdle Muscular Dystrophy : 肢帯筋型ジストロフィー
Fukuyama type Congenital muscular dystrophy : 福山型先天性筋ジストロフィー