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消えた新薬…助かる命と間に合わない命〔2〕

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国のがん政策の根拠法、「がん対策基本法」の改正案が10月28日に公表されました。
「がん対策基本法」は、主に、次の要点について定められた法律です。

第二条
     1、がんの克服を目指し、がんに関する専門的、学際的又は総合的な研究を推進するとともに、がんの予防、診断、治療等に係る技術の向上その他の研究等の成果を普及し、活用し、及び発展させること。

     2、がん患者がその居住する地域にかかわらず等しく科学的知見に基づく適切ながんに係る医療(以下「がん医療」という。)を受けることができるようにすること。
(最終改正:平成26年6月13日法律第六七号より抜粋)


11月4日、がん対策基本法の改正案は、基本法の成立から10年になるのに合わせて、がん患者が安心して暮らせる社会の構築や生活支援の充実などを目指すとした。

その上で、治療が難しく、患者数が少ないがんの治療法の研究促進や、患者の就労の支援、それに、必要な教育や治療を受ける為の環境整備などを、国や自治体、企業などに求めています。

全国31のがん患者の団体で作る、「全国がん患者団体連合会」の天野慎介理事長は、がん患者や家族の為に、一日も早く改正案を成立させて欲しいと訴えた。




今の医療では、患者が多い胃がん、大腸がん、乳がんなどの治療法は確立して来ているが、膵臓がんやスキルス性胃がん、小児がんなど、治療が難しいとされる「難治性がん」や、患者が少ない肉腫など「希少がん」は、治療法開発や支援が遅れている。

これらの"がん"に詳しい医師が少なく、製薬会社が新薬開発に積極的ではない事が背景にある‥‥、と分析している。



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結局、利益の乏しい新薬の開発は、他の製造業と同じように、見捨てられ、ガラパゴスと揶揄され、生産を取りやめるしかない――。

と、思われているかもしれないが、だからと言って全く挑戦を止めた訳ではない―――。
ただ私たちは、その実情を知らないまま、高額な画期的新薬が登場すると、その値段ばかりに注目が集まる。




新薬の開発プロセス
新薬の開発プロセス
近年の新薬開発に費やす期間は平均15年に及ぶ。


ここにざっと、昨年以降、開発を断念もしくは中止した新薬の候補を、幾つか紹介しよう――。

【1】再発・難治性の末梢性T細胞性リンパ腫

2015年5月13日、武田薬品工業株式会社は、オーロラAキナーゼ阻害薬「alisertib」(開発コード:MLN8237)について、第3相臨床試験の中間解析結果に基づき、標準治療に勝る有効性を示す可能性が低いと判断、試験を中止すると発表。

【2】デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)
2015年6月11日、国立精神・神経医療研究センターが、国産初のアンチセンス核酸医薬品の開発を目指していた、モルフォリノ核酸のエクソン・スキップ医薬品のマウスおよび犬モデルの実証研究から、第1相臨床試験の開始が未だに始まっておらず、有望性に乏しい可能性がある。

【3】アルツハイマー型認知症治療薬
2015年9月15日、田辺三菱製薬株式会社は、米国のフォーラムファーマシューティカルズ社と共同で実施していた、アルツハイマー型認知症患者を対象とした新規α7ニコチン性アセチルコリン受容体アゴニスト製剤「MT-4666」(EVP-6124、国際一般名:encenicline)について、重篤な消化器系副作用が少数例報告された事から、日本における国際共同第3相試験の中止を発表した。

【4】高リスク動脈硬化性心血管疾患治験薬「Evacetrapib」
2015年10月19日、日本イーライリリー株式会社の親会社、米イーライリリーはコレステリルエステル転送タンパク(CETP)を阻害してHDLコレステロールを増加、LDL・VLDLコレステロールを減少させるとされた「CETP阻害薬Evacetrapib」について、第3相試験及びその他の全ての試験を、効果不十分として開発中止を発表。

【5】1型および2型糖尿病治療薬
2015年12月4日、日本イーライリリー株式会社の親会社、米イーライリリーは1日1回投与治療薬として開発して来た、1型および2型糖尿病の持効型インスリン製剤「basal insulin peglispro」の、第3相臨床試験において肝脂肪含量の変化が観察されたとして、開発の中止を発表した。

【6】筋萎縮性側索硬化症(ALS)
2016年3月22日、エーザイ株式会社は日本で承認申請していた筋萎縮性側索硬化症(ALS)に用いる高用量メコバラミン製剤について、医薬品医療機器総合機構(PMDA)から有効性が確認できず、審査困難である旨の見解が出された為、開発を断念、承認申請を取り下げと発表。

【その他過去10年以内の開発中止、又は承認申請取り下げ医薬候補品】

●アントラサイクリン系又はタキサン系抗悪性腫瘍剤による治療歴を有する局所進行又は転移性乳がん治療薬〔イクサベピロンixabepi〕について、欧州不承認の為、日本国内での開発予定なし。

●骨髄異形成症候群治療薬〔デシタビンdecitabine=ヤンセンファーマ→大塚製薬〕について、ヤンセンファーマ(株)が日本開発断念。大塚製薬が引き継ぐ。

●非転移性で顕微鏡的に完全切除後の骨肉腫治療薬〔ミファムルチドmifamurtide=武田薬品〕について、米FDA不承認のため、日本での開発中断。(がんワクチン製剤)

●去勢抵抗性の転移性前立腺がん治療薬〔シプリューセルT sipuleucel‐T〕について、欧州承認取り下げで日本での開発予定なし。(前立腺がんのがんワクチン)

●再発又は難治性の多発性骨髄腫治療薬〔カルフィルゾミブcarfilzomib=小野薬品工業〕の国内での開発断念。

●2つ以上のチロシンキナーゼ阻害剤に増悪又は不耐の慢性骨髄性白血病治療薬
〔オマセタキシンomacetaxine mepesuccinate〕について、欧州で申請取下げに付き、日本での開発予定なし。


◇◇ 現在、悪性腫瘍(消化器系)の中で最も予後不良と言われる膵臓がん(膵がん)については、〔イリノテカン水和物 リポソーム注射剤irinotecan hydrochloride liposome injection〕が、昨年10月欧州で承認されましたが、米国では未だ承認させていません。
日本ではシャイアー・ジャパン社が開発中ですが、進捗せず。



新薬の発見開発工程
新薬の発見開発工程
(医薬品候補の選別)


これら新作用機序の医薬品は、殆ど、欧州委員会、米FDAでの承認を経て、日本での承認申請になる場合が多い。
また新規医薬品の場合、日本・欧州・米国の共同臨床試験によって、ヨーロッパ人、北米人、アジア人のグローバル試験を実施する事で、使用量や副作用の強弱を大規模に知る事が出来る為、今後、益々増えて行くでしょう。



より安全で、適正な使用のため、医薬品の開発は、まるで国際宇宙ステーションのように国家の隔たりを排除し、各国が多額の費用を分担する事で成り立っています。

今日では、新薬の誕生は偶然の産物ではなくなりました。

多くの研究者と、多額の予算、そしてたくさんの患者の協力を経て、その上で多くの失敗を積み重ね、長い年月の末、世に送り出されている事を、少しだけ心に留めておいて欲しいと思います――――。







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